夜空に見るは灰色の瞳
頭に浮かんだ台詞をなぞるように、声に出してみる。

そういえばあの男は、私がそれに対して帰ってくださいしか言わないことを、大層不満がっていたか。
魔法使いだからとこき使われないことを喜んだっていいと思うのだが、そうならないの、やはりそれがお詫びのためだからだろうか。

まあ何もしないことにはお詫びをしたことにはならないのだから、きっとそうなのだろう。

また、うーん……と唸りながらしばらく考えていると、唐突に空腹を知らせる音が耳に届いた。


「…………とりあえず、何か食べよう」


この考えがまとまらない感じは、ひょっとしたら空腹のせいなのかもしれない。

目が冴えてしまって二度寝は出来そうにないので、一度大きく腕を天井に突き上げ、背筋を反らすようにして体を伸ばした後でベッドから降りる。

寝室から洗面所に向かいながら、もう一度、男がよく言うあの台詞を頭の中で転がしてみた。

あの男はお詫びがしたいと言っているのだから、ひょっとして私が何かお願いすれば、あの男はそれを叶えることで満足していなくなってくれるのだろうか。

そうなると、あのウサギでも充分なのだが、まあせっかくだ。もう一つくらい何かお願いしてみてもいいだろう。
あの男の言う通り、魔法使いに何でもしてもらえる機会なんて、そもそも出会える機会だって、もうないだろうし。というか、もうないことを祈りたいし。
< 85 / 263 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop