夜空に見るは灰色の瞳
「今更じゃないですか?もう見ちゃいましたよ」

「やっぱり他人思いとか嘘じゃない!何てタイミングで出てくるのよ」

「女性はお化粧で別人のようになると言いますが、叶井さんはそんなにお変わりないですよ。むしろ普段からそのままでもいいのでは?」

「わかった、バカにしてるでしょ」


顔全体を覆っていたタオルを少しずらして目だけを出すと、鏡に映る男の顔を睨み付ける。
それに男は、いえいえそんなつもりはと首を横に振った。


「作られたものではない自然さがとても素敵だと言いたかったんです」

「どうだか。それで、わざわざ鏡を繋いでとんでもないタイミングで登場した理由っていうのは」


まあ、聞かなくても予想はつくが。


「はい、叶井さんのご想像通りです。ところで叶井さん、これから着替えとかしますか?僕もうそっちにお邪魔してもいいですか」

「……はい?さっき、今日はここから失礼するって言ってたじゃない」

「ですから、ここからそちらにお邪魔するんですよ」

「…………」


なるほど、今日は鏡越しで失礼しますという意味ではないということか。というか、通路にもなるのか。
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