夜空に見るは灰色の瞳
「随分と着替えに時間がかかっていると思ったら、叶井さん、お化粧もしていましたね」
「しちゃ悪い?私はスッピンを晒してもいいと思えるほど、あなたに気を許した覚えはない」
「もうさっき晒していましたけどね」
「……好きで晒したんじゃない」
睨み付けても一向に動じない男とは、今日も一定の距離を空けて向かい合う。
「それで、いつものやつだっけ」
「はい、いつものやつです。何かありますか?」
「……いや、特には」
と言うか、これから考えようと思っていたのだ。具体的には、朝食の後くらいに。
「それは、やらない人の台詞では?」
「勝手に読むなって何度も言ってるでしょ!」
「読んではいません、感じただけです。それにしても、こんなに何も思い付かないなんて、やはり僕の中で、叶井さんは実は人間ではない説が浮上していますよ」
「パッと思い付かないだけで、人並みに欲はある!あと前にも思ったけど、人間、人間って随分と他人事みたいに言うけど、魔法使いは人間じゃないわけ?」
「まあ、人間と言えば人間。人間でないと言えば人間ではないですね。見た目は同じですが、内側の構造がこう……少し違うと言いますか」
「……内側の構造?内臓の話?」
「いえ、内臓ではなく」
何を言っているのかよくわからないが、まあ完全に同じではないということなのだろう。
どうせ詳しい説明をされても理解出来る気がしないので、そういうことにしておく。