夜空に見るは灰色の瞳
「それより、先ほど叶井さんは人並みに欲があると言いましたが、どんな欲があるのか訊いてもいいですか」


別に隠し立てするほどのことでもないし、隠したところでどうせバレそうなので、素直に「物欲」と答えると、その答えに、失礼にも男は声を出して笑った。


「なるほど、それは人間が持つ典型的な欲ですね。ちなみに、何が欲しいのですか?」


バカにされているようで腹立たしいが、これもまた隠してもバレそうなので、やや膨れながら、玉子焼き用のフライパンと新しいマットレスの二つを答える。


「それはまた随分と生活感に溢れていますね」


人好きのする、いや胡散臭い笑顔で男が言う。


「ところで、玉子焼き用というそれ専用の調理道具が欲しいということは、叶井さんはかなりお料理をされるんですか?」

「まあ一人暮らしだし、自分でやらなきゃご飯食べられないし。……っていうか、それは今どうでもいいでしょ」

「じゃあ、玉子焼き用のフライパンを出したら、玉子焼き作ってくれますか?」

「……待って、何でそうなるの」

「実は僕、朝ご飯がまだでして。あっ、叶井さんもですよね。じゃあ丁度良いですね」

「……待って、全然丁度良くないんだけど」

「ちょっと待っていてくださいね」

「いや、待つのはあなたの方だから!」
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