夜空に見るは灰色の瞳
ひとまず、曖昧に頷くような首を傾げるような動作を返すと、男はそれでもいいことにしたのか、作り上げたそれに、まるでロウソクの火を吹き消すようにフッと息を吹きかけた。
すると、パッと白いもやもやが散って、何だかよくわからないがとにかく四角い形をした物体が、その一瞬でフライパンに変わった。


「…………」


ポカンと口を開けたかなり間抜けた顔で、私はそれを見つめる。


「はいどうぞ、叶井さん。ご所望の、玉子焼き用のフライパンです」


男が差し出してきたのは、確かに言う通りの物だ。
玉子焼きを作るのに特化した長方形で、テフロン加工もバッチリのそのフライパンは、正に私が欲していた物で間違いない。

最初こそ手を伸ばすのを躊躇ったが、見た目はどう見ても普通のフライパンなので、恐る恐る受け取って、テフロン加工された部分を指先で撫でたり、引っ繰り返して裏面もよくよく見たり、持つ場所を変えて取っ手もじっくりと観察する。


「……これ、火にかけたら溶けたりしない?」

「そんなやわな物はフライパンを名乗ってはいけないと思います。試しに使ってみてくださいよ、溶けませんから」


それは確かにそうなのだが、お店で購入してきた物ではなく、元が白いもやもやだったというのが心配なのだ。
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