夜空に見るは灰色の瞳
テーブルを挟んで向かい合ったところで、ハッとする。

食事をするにはテーブルに手が届く位置に座るしかないが、そうなると必然的に男との距離が近くなる。
一緒に台所にも立ってしまったので今更のような気もするが、やはり距離感は大事だろう。

ここは、キッチンで立って食べようかなと考えたところで


「叶井さん、立って食べるのは大変行儀が悪いですよ」


そう注意してくる男に、私は思わずジト目を向ける。


「……洗面台をまたいで家に入ってくるような人に、行儀についてとやかく言われたくないんだけど」


この男は勝手に繋いだ洗面所の鏡を通ってこの部屋に来る際、まるで窓から侵入する泥棒のように洗面台をまたいでいた。


「僕だって出来ることならもっとスマートに登場したかったですけど、仕方がない場合だってあります。お部屋に全身鏡でもあればよかったのに、叶井さんはお持ちでないから」

「私のせいだと言いたいわけ」

「ご要望とあれば、出しますよ?」

「出さなくていい」


ただの鏡としてなら欲しいところだが、それを通路代わりにされるとなると話は別だ。
そんな物を貰ったところで、おちおち鏡の前に立てやしない。
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