日常(仮)
こころ。

私の名前は、佐藤心愛。心から愛すると書いて「ここあ」。
心から誰かを愛せて、愛される人に育ってほしいという願いからつけられたみたい。
その願いが叶ってるかはわからないけど、いい由来をもらったと思う。

だけど、ていらはずっと私を「こころ」と呼ぶ。
前に理由を聞いたことがあるけど、返事は曖昧だった。

「こころはこころだから。だから、こころって呼ぶの」

「だけど、みんなは心愛って呼ぶよ。ていらだけだよ、こころって言うの。」

ていらはもう返事をしてくれなくて、ちょっとムッとしてた。

ていらが私を「こころ」と呼ぶから小さい頃はどっちでも返事をしてたし、両方の名前を自分の呼び名にしてた。
「こころのはどれ?」と施設の先生に聞くと、

「心愛ちゃん、こころちゃんて?」

「こころは心愛のことだよ。」

「心愛ちゃんは心愛でしょ。」

「だって、ていらはこころて呼ぶよ?」

「心愛ちゃん、ていらは猫よ?お話できないでしょ。嘘はだめ。」

最初は優しくそう言ってくれてた先生たちも、次第に私が「こころ」と言う名前を口にすると怒るようになった。
先生だけじゃない、施設にいるみんなが私を避けるようになった。
何かに取り付かれている、そばにいる猫は化け猫だって。
そりゃあ、みんな気味悪がるよね。
少し成長した今ならわかる。
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