日常(仮)
私は難しいことを考えるのをやめた。
ていらとこれからも一緒にいられるのならばそれでいい。
誰も邪魔をしないでくれるようになるのなら、それだけでいいや。
ただ、そう思った。

この日のことが原因で、私はこの施設にいられなくなった。
たくさんの施設を転々とした。
どこに行っても馴染めないし、誰も近寄ろうとしない。
別に良かった。
私は一人じゃないから。
人と関わらず、どんどん自分の殻にこもっていった。




そんな私に変化が訪れるきっかけとなったのは、教会に併設する施設に移ったことだった。


「はじめまして。よろしくね、心愛ちゃん。」

優しく微笑む施設の先生。
頭だけ軽く下げた。

「こころ、感じよさそうな人じゃん」

私の足元にていらがいる。
ていらと一緒にいることは、もう何も言われない。
というより、何も言えないんだと思う。

ていらのほうを見て、首を小さく横にふった。
ヤダよ。ここは私たちのこと受け入れてくれるなんて期待しない。

「そんな顔しないの。ぶすになるよ。」

なんてこと言うのよ、
そう返したかったけど、目の前に人がいたから
ていらに眉間にしわを寄せた表情を送った。

「心愛ちゃん、その子のお名前教えてくれない?」

「え、」

驚いた。だって、初めてだったんだもん。
ていらの名前を知りたいっていう人。

「ほら、案外当たってるかもよ」

ていらを抱き上げる。

「…ていら。」

「ていらね。改めて、よろしくね。心愛ちゃん、ていら。」

ふふ、という表現が似合うような笑い方をする人。
穏やかそうな人。
< 6 / 52 >

この作品をシェア

pagetop