日常(仮)
この施設にきてから数日。
私はあからさまに浮いていた。
馴染めていなかった。

みんなと同じ教室にいても、ていらと隅のほうにいて、教室にいない時はあの倉庫になってる教室にいた。


今日は、ポカポカしててあったかい日。
窓から入る日光が気持ちいい。
ていらと日向ぼっこしていた。

「ていら、そうしてると普通の猫みたいだよ」

まるくなっているていらは、まるで普通の猫。

「私、ほかの猫よりもきれいよ。いい毛並みしてるでしょ。」

自信満々に答えるていらが面白くて微笑む。


ガラッーーー

「え、」

突然、扉があけられた。
ここに来るようになってから、誰かが来るのは初めてだった。

「あ、猫女。」

私たちを見た第一声。

「なに、猫女って。こころ、新しいあだ名更新したね。」

ていらがちょっとだけ、あきれたようにそう言いう。
扉を開けたのは、教室でみたことがある男の子。
地毛なのかな?茶色い髪の毛が似合う。
教室でみかける時はいつも周りに人がいる。
みんなと楽しそうにしてて、私が関わることなんてないと思ってた。

「お前、よくいなくなるけどここにいたんだ。」

「ごめんなさい。出るから。」

「いや、いいよ。俺、隠れるところ探してただけだから。」

どうやらかくれんぼをして遊んでいたようだ。

「でも、あなたを探しに誰かが来るってことでしょう。じゃあ、私はほかの場所に行く。」

「こころも一緒にかくれんぼしようよ。あ、俺はやとって言うんだ。」

「…え、待って。なんで、」

「かくれんぼ嫌い?じゃあ、外でサッカーでもする?」

「違う。なんで、その名前…、?」

この男の子、はやとは間違いなく私をこころと呼んだ。
あの事件を起こした施設で以外「こころ」の名前を人前で口に出したことない。


「はやとー!あいつどこに隠れてんだ?」

人が来る足音がした。

「やばっ」

口元に人差し指をあてて、静かにしてというポーズをとる。
静かにしてといわれなくても、言葉が出てこない。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。
また、ていらが連れていかれちゃうかもしれない。
また、何かが起きちゃうかもしれない。

「こころ、」

ていらに名前を呼ばれて我に返る。
そして思った。逃げなきゃと。

ていらを抱えて、教室を飛び出した。

「え?こころ??は??」

教室のすぐそばまで、はやとを探しにきていた子たちとぶつかりそうになる。

「あぶな!!!なんだよ、猫女のやつ…あ!!はやといんじゃん!!!」

「猫女とこんなとこで何してたんだよ」

後ろから騒いでる声が聞こえてきたけど、逃げることしか思いつかなかった。

「こころ、落ち着いて。どこに行くの?」

腕の中でていらがそう言うけど、落ち着いてなんていられない。

「どこかに逃げないと。また、ていら取られちゃう。なんで、なんで「こころ」の名前知ってたの?私、言ってないよ。先生?何もう、わかんないよ」

< 8 / 52 >

この作品をシェア

pagetop