酔える声の裏側〜イケメン声優に溺愛されちゃった!?〜
「あら、おかえりまつり。」

「まつりおかえり。」

家に帰ると、久しぶりに父と母が揃っている。

まだ仲は良さそう。

「なんだか、心ここにあらずって感じね。」

「え、うん...まあ...。」

「佐伯さんに口説かれた?」

「え、なんでそのこと!?」

「顔見れば分かるわよ。夢のテーマパーク行ったあとだってそんなニヤニヤしないんだから。」

うそ...私ニヤニヤしてる?

「佐伯さんって?」

「ああ、お父さんは知らなかったわね。
まつり、今月から学校やめて事務所の声優さんのマネージャーやってるのよ。」

「へぇ...頑張ってるじゃないか。
じゃあ、佐伯さんっていうのは、
佐伯雅のこと?」

「そうよ。まつりったらファンだってこともあって一目惚れして。
それで毎日浮かれているの。今日だって、
口説かれて舞い上がっちゃってるんだから。」

「違うよ。告白されたんだもん!好きだから付き合ってって。」

「なるほど。もう結構進展してるんだね。
お父さんは恋愛は自由にしていいと思うよ。」

「そうやって甘やかすけどね。
芸能人だからって安全とは限らないんだから。むしろ、そういう人ほどエラいスキャンダルに身を滅ぼすのよ。」

「あ、それもしかして僕のこと言ってる?
やだなぁ。ただのしがない元バンドマンだよ。ぼくは。」

「昔の栄光なんて何にもならないわ。
今じゃ定職就かないんだからフリーターでしょ。」

「そんなこと。一応君たちを養っていける財産はあるんだよ?」

「別に私もまつりもあなたにもらったコネでなんとかしていけてるしもういいわよ。愛想尽かさなくても。」

「え、ちょっと?その言い方...。
もしかして僕の他に男がいるの?」

「どうでしょうね。」

「やだ!
僕は一途なんだ。君たちのこと大好きで愛してるんだよ。」

「...ねえ、まつり。
もし佐伯さんもこの男と同じノリであなたに告白してるんだとしたらどうする?」

「え?」

「とんだチャラ男だったらどうするのかってことよ。
今はファンだしいい人だと思ってるかもしれないけど、下心あるかなんて分からないわよ?」

「そ、そんなことないもん!!」

「そうだ!!
僕がチャラ男なわけがない!!」

「まあ、百歩譲ってチャラ男じゃないとしても。
これからマカさんの要求にしたがって、顔出しして、歌を歌ったりしてもっと有名になって...。
そしたら、まつりが付け入る隙なんてなくなるんじゃない?」

「え...?」

「顔を出して交流があれば、かわいい子とだっていっぱい知り合うだろうし、熱烈なファンだって増えるの。
お父さんも今じゃこんなんだけど、昔は人気で大変だったのよ。私に対する誹謗中傷なんてしょっちゅうで、あなたにも危害が及びそうだったの。だから別れたっていうのが大きいわ。」

「でも...。」

「佐伯さんと付き合うこと自体には反対しないわ。真っ向から彼を疑ってるわけでもないの。
でも、芸能人ってやっぱりそんなもの。
やっと落ち着くのはこんなおっさんおばさんになってからよ。それまで耐えられるかしら。」

なんだか、痛いところを突かれてる気がする。

「まあ、そんなの今じゃ分からないわよね。
少なくとも、彼の顔出しや活動範囲を広げることは慎重に考えた方がいいんじゃない?
それがまつりのためよ。」

「うーん...。」

「私は、自分の恋愛のために他の友達とか、仕事とか、色々捨てたわ。
まつりがそうならないことを願うばかり。」

「...今まですまないね。なんだか。」

「今さら謝られてもね。
私もあの時は馬鹿だったっていうのもあるし。仕方ないわよ。」

なんだか、先を見ているようで、複雑な気分だなぁ...。

私のために言ってくれてるっていうのはわかるけど。

「それにしても、その佐伯くんってよっぽどカッコいいんだね。まつりが惚れちゃうぐらいだから。」

「うん。」

「どうなのかしらね。まつりはイケメンならみんな好きなんじゃない?」

「そんなことないよ!!
確かに、色んなアニメキャラ好きだけど、それは全部佐伯さんが演じてるからなの。」

「それじゃ、佐伯さんの声が好きなのね。
あと顔?」

「相変わらず、母さんは辛辣だよね...。」

違うもん...。

お母さんだって佐伯さんに会ってみれば分かるもん。

っていうか、前までがめつくいけって言ってたのに。
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