もう二度ともう一度
「カモのつがい」
あれから数日、手紙の件も自分のこの時期の記憶には無い。
別の女生徒から遊びに誘われた事があるが、今回は面倒なので関わりもない。早川自身は、目立たない様にしてきたつもりだ。
『誰だったんだろうな・・アレ』
窓の外を見て呆けながら、なんにせよ女性に対して特に甘いと言うか、悩んでしまう自分の性格からも上手い断り方もない。
あれで良かったのかもしれないと思った時、通り過ぎて行く生徒の一人が、攻めるような厳しい眼で早川を睨んだ。
「?」そんな顔をしていた。あんな気の弱そうな娘が、あんな眼をしても早川は気が付かない。
そんなクセ、知れば必死で相手が傷付くまいとするだろう。
高見真知子の判断は、早川本人より早川を理解したモノだと言えた。
教室には高見真知子や野々原もいるが、早川はもういいと思ったのだろうかもう何も聞かなかった。
ただ、早川には責任と言う感覚がわからなかったし、自分の価値を否定している為にこんな時のマニュアルが無いのだ。
近頃は将来の事も野々原の事も悩んでばかりだ。高見真知子が現れて、本当にペースが狂っている。
『本当なら、気楽にやってた頃だけどなぁ・・』
楽しそうにボール遊びをしている生徒達を見ては、本来ならあそこに混ざってたり放課後遊び回ったり、テレビゲームに夢中だった筈だ。
それが今頃は遠ざけていた野々原とも相変わらずで、高見真知子はまるで昔からの知り合いの様になってしまっている。
『アレ?ああ・・知り合いか。あいつ、何者なんだろな?』
そんな間の抜けた疑問を抱えたまま、この頃は過ぎて行った。
放課後、なんとなく思い出の街を歩いた。
いつもの理髪店や、母親とたまに行ったお好み焼き屋。
通っていた小学校。小さい頃、近所の皆で遊んだ公園。
おばあさんが亡くなって、とっくに閉められた筈の文房具屋。
失っていく大切な景色達、それに歩き疲れて休憩に腰掛けた小さな池のほとりにカモのつがいをみつけた。
『へへ・・可愛なお前ら』
さっきパン屋に寄って、後で食べようとしていた物をちぎって投げていた。
もうそこまでカモ達が来て、二匹で分け合う様に食べていた。
「こんな時間が、一番好きだな俺・・」
そんな風に独りごちていたら、自分を呼ぶ声がした。
「おーい、早川なにしてんねん?」
「ああ、カモな。餌やってたんだ」
野々原の友達の、関西弁の二谷だ。自転車を停めて上がって来た。
「呑気なやっちゃなぁ」
「ああ、ダメだぞ!具とかは。小麦のトコだけな」
自分にも撒かせろとパンを取り上げた二谷に、動物に刺激物や調味料は良くないと早川は言った。
「なんで鴨なんかと遊どんねん?矢刺したんアンタか?」
なんでだろうか、こんな所まで歩いてもいた。自分でも理由は分からない。
「お前、この辺なんだな」
「そやで、もうちょい先やけどな!」
「そっか・・」
少し遠いのか、自転車通学生だった。早川も結構、歩いたモノだ。
「あっちゃんに、ちゃんと連絡してんのか?」
「いや」
そんな早川へ、二谷はちょっと言わなければと思った。
「しっかりしぃや?アンタ、このまま厶ヤムヤにしようとかなら、ウチ絶対シバくから」
有耶無耶と言いたいのだろうが、その発言自体を彼女は有耶無耶に発音している。
「家族もいるんだ、電話も迷惑だよ」
「そんな事・・頭使えばエエやん、どっか約束の場所に手紙置くとかさ!」
そんな忍者みたいな、とまだ言い訳が出そうだが捲し立てられたら疲れてしまう。
早川は適当に礼を言って歩き出した。
すっかり遠くなった家路を歩きながら彼は、しばらく眺めていたあのカモのつがいがただ幸せそうだと心に感じていた。
別の女生徒から遊びに誘われた事があるが、今回は面倒なので関わりもない。早川自身は、目立たない様にしてきたつもりだ。
『誰だったんだろうな・・アレ』
窓の外を見て呆けながら、なんにせよ女性に対して特に甘いと言うか、悩んでしまう自分の性格からも上手い断り方もない。
あれで良かったのかもしれないと思った時、通り過ぎて行く生徒の一人が、攻めるような厳しい眼で早川を睨んだ。
「?」そんな顔をしていた。あんな気の弱そうな娘が、あんな眼をしても早川は気が付かない。
そんなクセ、知れば必死で相手が傷付くまいとするだろう。
高見真知子の判断は、早川本人より早川を理解したモノだと言えた。
教室には高見真知子や野々原もいるが、早川はもういいと思ったのだろうかもう何も聞かなかった。
ただ、早川には責任と言う感覚がわからなかったし、自分の価値を否定している為にこんな時のマニュアルが無いのだ。
近頃は将来の事も野々原の事も悩んでばかりだ。高見真知子が現れて、本当にペースが狂っている。
『本当なら、気楽にやってた頃だけどなぁ・・』
楽しそうにボール遊びをしている生徒達を見ては、本来ならあそこに混ざってたり放課後遊び回ったり、テレビゲームに夢中だった筈だ。
それが今頃は遠ざけていた野々原とも相変わらずで、高見真知子はまるで昔からの知り合いの様になってしまっている。
『アレ?ああ・・知り合いか。あいつ、何者なんだろな?』
そんな間の抜けた疑問を抱えたまま、この頃は過ぎて行った。
放課後、なんとなく思い出の街を歩いた。
いつもの理髪店や、母親とたまに行ったお好み焼き屋。
通っていた小学校。小さい頃、近所の皆で遊んだ公園。
おばあさんが亡くなって、とっくに閉められた筈の文房具屋。
失っていく大切な景色達、それに歩き疲れて休憩に腰掛けた小さな池のほとりにカモのつがいをみつけた。
『へへ・・可愛なお前ら』
さっきパン屋に寄って、後で食べようとしていた物をちぎって投げていた。
もうそこまでカモ達が来て、二匹で分け合う様に食べていた。
「こんな時間が、一番好きだな俺・・」
そんな風に独りごちていたら、自分を呼ぶ声がした。
「おーい、早川なにしてんねん?」
「ああ、カモな。餌やってたんだ」
野々原の友達の、関西弁の二谷だ。自転車を停めて上がって来た。
「呑気なやっちゃなぁ」
「ああ、ダメだぞ!具とかは。小麦のトコだけな」
自分にも撒かせろとパンを取り上げた二谷に、動物に刺激物や調味料は良くないと早川は言った。
「なんで鴨なんかと遊どんねん?矢刺したんアンタか?」
なんでだろうか、こんな所まで歩いてもいた。自分でも理由は分からない。
「お前、この辺なんだな」
「そやで、もうちょい先やけどな!」
「そっか・・」
少し遠いのか、自転車通学生だった。早川も結構、歩いたモノだ。
「あっちゃんに、ちゃんと連絡してんのか?」
「いや」
そんな早川へ、二谷はちょっと言わなければと思った。
「しっかりしぃや?アンタ、このまま厶ヤムヤにしようとかなら、ウチ絶対シバくから」
有耶無耶と言いたいのだろうが、その発言自体を彼女は有耶無耶に発音している。
「家族もいるんだ、電話も迷惑だよ」
「そんな事・・頭使えばエエやん、どっか約束の場所に手紙置くとかさ!」
そんな忍者みたいな、とまだ言い訳が出そうだが捲し立てられたら疲れてしまう。
早川は適当に礼を言って歩き出した。
すっかり遠くなった家路を歩きながら彼は、しばらく眺めていたあのカモのつがいがただ幸せそうだと心に感じていた。