もう二度ともう一度
「去って行く人へ」
自分達の三学期の内に、三年生が卒業していく。
在校生はそれを見送る。早川は花束を持ってその居並ぶ生徒の中にいた。
「卒業おめでとうございます香坂先輩!高校生になってもお元気で!」
そう言うと、早川は髪の長いスラッとした卒業生の一人にそれを差し出していた。
小学校の時からの先輩で、笑うと眼が無くなる様な結構な美人だ。
彼はずっと彼女のファンだった、何処か高見真知子にも似ている気がする。
『良かった!・・本当に、この時代に来て!先輩に、香坂さんに花を渡せて!』
同級生からは笑われたが、早川は感無量の様子だった。中年はこの辺り図太い。
教室に戻ると、今日は二年や一年生ももう下校出来ると言う。
ホームルームが終われば、だが。
「こぉうさかゼンバィ〜!」
呼び出された先で、高見真知子はおかしなモノマネをしてからかう。
それをキャッキャッと野々原も笑っていた。
「早川くん、あの人仲良かったの?」
「小学校の時、委員会で一緒だった。本当に優しい人さ・・ガッ!」
何か続けて話そうとしたら、高見真知子の荷物が飛んで来た。
「早川君、私たち、そんな事を聞きに来たんじゃないわ!」
春休みの約束だった。
「えっと、じゃあね・・また八時半にですね。駅前集合で!三月、そうだな最終日で」
「わかったわ、あっちゃん、絶対三人で行くからもし都合悪くなったら私に電話してね?予定変えさせるから!」
「うん、じゃあ私こっちだから!さよなら二人とも」
そう言って、野々原は先に帰り方向が同じ二人は仕方なく一緒に歩いた。
「香坂、か。あの女は誰だ?」
「さくらさ、あの人の名前と同じ。桜だよ、たった一つの季節の一瞬に、咲いて散る美しい花だ、それは・・」
道すがら、さっそく聞いて後悔した。早川と言う男は本当にコレだ。
そのクセ、あの香坂と言う先輩が早川に本気で心を向けたなら、尻尾を巻いて逃げ出すだろう。
「お前は、本当にどうしようもないな!」
高見真知子も同じく、逃げ出された一人であり心底最低だと思った。
「憧れだっただけだ。それに俺にはなんの価値もない、ただのゴロツキさ!俺なんて・・」
昔を思い出しているのか、寂しさが胸に去来したのか早川は急に暗い顔をして呟いた。
「自分になんて、なんか言うな!!」
そう窘められた。
「はいはい」
早川はとりあえず返事をした。姿勢はともかくこの二人にはこの頃、こんな平穏な時間も流れていた。
「あ、あのところで・・なんで野々原と?」
「ん?言ったろう、私は野々原あずさ、いやあっちゃんとは正々堂々決着を付けたい。私か彼女か、どちらかは選んで貰うぞ!逃げられると思うな!」
そう、高見真知子らしく凛々しく答えた。だが、早川には少し違和感と言うか、なにか不思議な錯覚を感じた。
『俺は・・高見が好きなのか?なんだろう、何かが変だ。ずっと懐かしい、ずっと苦しかった感覚が、する・・?』
彼女の正体を、鈍感ながら早川の本能は一瞬捉えた気がしていたが、やはりモヤ掛かってしまった。
「わかった!この感じ、お前美里だな?」
久しぶりに、渾身の平手が早川の頬を貫いた。
今日は何も言わず、高見真知子は去って行く。その背中に早川は「貴女はやはり」と呟いていた。
在校生はそれを見送る。早川は花束を持ってその居並ぶ生徒の中にいた。
「卒業おめでとうございます香坂先輩!高校生になってもお元気で!」
そう言うと、早川は髪の長いスラッとした卒業生の一人にそれを差し出していた。
小学校の時からの先輩で、笑うと眼が無くなる様な結構な美人だ。
彼はずっと彼女のファンだった、何処か高見真知子にも似ている気がする。
『良かった!・・本当に、この時代に来て!先輩に、香坂さんに花を渡せて!』
同級生からは笑われたが、早川は感無量の様子だった。中年はこの辺り図太い。
教室に戻ると、今日は二年や一年生ももう下校出来ると言う。
ホームルームが終われば、だが。
「こぉうさかゼンバィ〜!」
呼び出された先で、高見真知子はおかしなモノマネをしてからかう。
それをキャッキャッと野々原も笑っていた。
「早川くん、あの人仲良かったの?」
「小学校の時、委員会で一緒だった。本当に優しい人さ・・ガッ!」
何か続けて話そうとしたら、高見真知子の荷物が飛んで来た。
「早川君、私たち、そんな事を聞きに来たんじゃないわ!」
春休みの約束だった。
「えっと、じゃあね・・また八時半にですね。駅前集合で!三月、そうだな最終日で」
「わかったわ、あっちゃん、絶対三人で行くからもし都合悪くなったら私に電話してね?予定変えさせるから!」
「うん、じゃあ私こっちだから!さよなら二人とも」
そう言って、野々原は先に帰り方向が同じ二人は仕方なく一緒に歩いた。
「香坂、か。あの女は誰だ?」
「さくらさ、あの人の名前と同じ。桜だよ、たった一つの季節の一瞬に、咲いて散る美しい花だ、それは・・」
道すがら、さっそく聞いて後悔した。早川と言う男は本当にコレだ。
そのクセ、あの香坂と言う先輩が早川に本気で心を向けたなら、尻尾を巻いて逃げ出すだろう。
「お前は、本当にどうしようもないな!」
高見真知子も同じく、逃げ出された一人であり心底最低だと思った。
「憧れだっただけだ。それに俺にはなんの価値もない、ただのゴロツキさ!俺なんて・・」
昔を思い出しているのか、寂しさが胸に去来したのか早川は急に暗い顔をして呟いた。
「自分になんて、なんか言うな!!」
そう窘められた。
「はいはい」
早川はとりあえず返事をした。姿勢はともかくこの二人にはこの頃、こんな平穏な時間も流れていた。
「あ、あのところで・・なんで野々原と?」
「ん?言ったろう、私は野々原あずさ、いやあっちゃんとは正々堂々決着を付けたい。私か彼女か、どちらかは選んで貰うぞ!逃げられると思うな!」
そう、高見真知子らしく凛々しく答えた。だが、早川には少し違和感と言うか、なにか不思議な錯覚を感じた。
『俺は・・高見が好きなのか?なんだろう、何かが変だ。ずっと懐かしい、ずっと苦しかった感覚が、する・・?』
彼女の正体を、鈍感ながら早川の本能は一瞬捉えた気がしていたが、やはりモヤ掛かってしまった。
「わかった!この感じ、お前美里だな?」
久しぶりに、渾身の平手が早川の頬を貫いた。
今日は何も言わず、高見真知子は去って行く。その背中に早川は「貴女はやはり」と呟いていた。