もう二度ともう一度
「二人の旅路」
「あれぇ、アンタ春休み出ていかないの?」
母親はてっきり、早川がまた旅に出ると思っていた。
「うん、ちょっとヤボ用でな。おふくろも休んでさ、温泉なんかどうだい?お小遣いなら出すからさ!」
母親は少し悩んで、相手もねぇと言っていた。早川としては少し骨休めもして欲しいモノだが、苦労人はこう言う時悩んでしまう。
『あ〜あ、高見のバカがガタガタ言うせいで、旅にも行けねーや・・』
鉛筆を鼻で咥えて、本当なら朧げに予定していた長野や富山に想いを馳せていた。
「うるさいね・・はい早川!」
「早川、私だ・・・」
電話が鳴った瞬間、来る!そう思っていた。それはビンゴしてしまう。
コレが連休になればずっと繰り返すかと思うと素直に嫌だった。
「なんだ、寂しがり屋さんかお前は?」
「そんな事じゃない、ただ・・」
否定したものの、寂しい。高見真知子は女の人だ。
母親が気を使って、自分の使ってる奥の部屋に片付けのフリをして入って行く。
当然、あばら家であ
るから漏れて聴こえるが。
「そうだ!お前、一日俺にくれよ?コマーシャルに出て来る様なさ、南アルプスって、行ってみたいんだ!」
意外な早川からの誘いに短い承諾をして、高見真知子は受話器を降ろした様だった。
「雅由季、お前ね・・まだ中学生なんだから赤ちゃんなんか作ったらお母さん外歩けなくなるよ!」
やっぱり聞いてる。男の子の親とは、こんな不安を誰でも抱くのだろうか。
「たぶん、ずっと先だよ。孫なんて!」
そう言うと家を飛び出して、高見真知子の部屋を訪ねた。
『なぁに、虎穴に入らねば虎児を得ず。だな!』
そう思ってインターホンを押した。長いスカート姿の彼女は、少し歩こうと外に誘った。
「早川、お前どう言うつもりだ?あっちゃんの気持ちを考えた事があるのか・・!」
そう言われても、自分と高見真知子だけの世界はある。それになにもしない自信がある。
「不思議だ、俺は、今の俺は野々原へと同じ気持ちを高見に持ってるかもしれない」
「そうか、それは最低な事だな・・」
児童公園のブランコに座る高見真知子は、少し赤くなってもそう言った。
「俺もそう思った。だから、俺が考えてる事お前なら分かってくれるだろ?」
高見真知子は膝を見て寂しさを漏らした。
「また・・逃げ出すのか?」
「そうだ!」
早川はそう答えた。
「明日、駅に来い。朝の八時な?そんな所座ってると風邪ひくぞ。じゃな!」
翌朝、二人は新幹線の駅に向かった。もっとも近いそこから、まず横浜。そこから八王子を目指す。
「なんか、お前とこうしてると不倫旅行だな、まるで。」
「私は15だぞ・・」
きっと彼女は、もうそれで乗り切る覚悟らしい。老いとは辛いモノだ。
あまり会話も無く、富士山が見えるまで寝不足であろう彼女をを起こさなかった。
「奇麗だな、晴れて良かった」
「なに飲む?お茶か?ああ、じゃあ下さい、二つ!」
販売員から飲み物を買って小さなテーブルに置く早川。窓の反射で気づいたがつぶらな瞳をして取り出した酢昆布を食べている。
「なんだよ、お前も食うか?酢昆布。」
なんだろう、この男の緊張感の無さは。自分は今朝四時まで緊張や考え事で眠れなかったと言うのに。
「く、くれるか・・」
しかし、酢昆布は好きだ。そんな事をしている内に流石は新幹線、もう新横浜駅に辿り着きそうだった。
「俺達の頃なら、南アルプス市って名前な筈なんだけど。今はまだそんな名前じゃないけどまあ、とりあえず甲府、山梨県だな!」
出来れば特急に乗りたくて探す早川に、何処まで行くか聞くと、彼は迂闊な事をベラベラと答えた。
「お前、だれか人が聞いていたらどうする気だ?」
高見真知子は駅の中で辺りを確認して安堵した。
「あったぞ!あの歌で有名なあずさって特急だ、二号かは知らんが」
なんとも、因果な名前だと高見真知子はため息をついた。
母親はてっきり、早川がまた旅に出ると思っていた。
「うん、ちょっとヤボ用でな。おふくろも休んでさ、温泉なんかどうだい?お小遣いなら出すからさ!」
母親は少し悩んで、相手もねぇと言っていた。早川としては少し骨休めもして欲しいモノだが、苦労人はこう言う時悩んでしまう。
『あ〜あ、高見のバカがガタガタ言うせいで、旅にも行けねーや・・』
鉛筆を鼻で咥えて、本当なら朧げに予定していた長野や富山に想いを馳せていた。
「うるさいね・・はい早川!」
「早川、私だ・・・」
電話が鳴った瞬間、来る!そう思っていた。それはビンゴしてしまう。
コレが連休になればずっと繰り返すかと思うと素直に嫌だった。
「なんだ、寂しがり屋さんかお前は?」
「そんな事じゃない、ただ・・」
否定したものの、寂しい。高見真知子は女の人だ。
母親が気を使って、自分の使ってる奥の部屋に片付けのフリをして入って行く。
当然、あばら家であ
るから漏れて聴こえるが。
「そうだ!お前、一日俺にくれよ?コマーシャルに出て来る様なさ、南アルプスって、行ってみたいんだ!」
意外な早川からの誘いに短い承諾をして、高見真知子は受話器を降ろした様だった。
「雅由季、お前ね・・まだ中学生なんだから赤ちゃんなんか作ったらお母さん外歩けなくなるよ!」
やっぱり聞いてる。男の子の親とは、こんな不安を誰でも抱くのだろうか。
「たぶん、ずっと先だよ。孫なんて!」
そう言うと家を飛び出して、高見真知子の部屋を訪ねた。
『なぁに、虎穴に入らねば虎児を得ず。だな!』
そう思ってインターホンを押した。長いスカート姿の彼女は、少し歩こうと外に誘った。
「早川、お前どう言うつもりだ?あっちゃんの気持ちを考えた事があるのか・・!」
そう言われても、自分と高見真知子だけの世界はある。それになにもしない自信がある。
「不思議だ、俺は、今の俺は野々原へと同じ気持ちを高見に持ってるかもしれない」
「そうか、それは最低な事だな・・」
児童公園のブランコに座る高見真知子は、少し赤くなってもそう言った。
「俺もそう思った。だから、俺が考えてる事お前なら分かってくれるだろ?」
高見真知子は膝を見て寂しさを漏らした。
「また・・逃げ出すのか?」
「そうだ!」
早川はそう答えた。
「明日、駅に来い。朝の八時な?そんな所座ってると風邪ひくぞ。じゃな!」
翌朝、二人は新幹線の駅に向かった。もっとも近いそこから、まず横浜。そこから八王子を目指す。
「なんか、お前とこうしてると不倫旅行だな、まるで。」
「私は15だぞ・・」
きっと彼女は、もうそれで乗り切る覚悟らしい。老いとは辛いモノだ。
あまり会話も無く、富士山が見えるまで寝不足であろう彼女をを起こさなかった。
「奇麗だな、晴れて良かった」
「なに飲む?お茶か?ああ、じゃあ下さい、二つ!」
販売員から飲み物を買って小さなテーブルに置く早川。窓の反射で気づいたがつぶらな瞳をして取り出した酢昆布を食べている。
「なんだよ、お前も食うか?酢昆布。」
なんだろう、この男の緊張感の無さは。自分は今朝四時まで緊張や考え事で眠れなかったと言うのに。
「く、くれるか・・」
しかし、酢昆布は好きだ。そんな事をしている内に流石は新幹線、もう新横浜駅に辿り着きそうだった。
「俺達の頃なら、南アルプス市って名前な筈なんだけど。今はまだそんな名前じゃないけどまあ、とりあえず甲府、山梨県だな!」
出来れば特急に乗りたくて探す早川に、何処まで行くか聞くと、彼は迂闊な事をベラベラと答えた。
「お前、だれか人が聞いていたらどうする気だ?」
高見真知子は駅の中で辺りを確認して安堵した。
「あったぞ!あの歌で有名なあずさって特急だ、二号かは知らんが」
なんとも、因果な名前だと高見真知子はため息をついた。