もう二度ともう一度
「その夢の中で」
特急「あずさ」に揺られて、隣県である山梨県にすぐに着いた。それでも、ここまで約五時間の旅だった。
タクシーを拾って、早川が予め予約していた宿に着く。それも偶然キャンセルが出たそうだ。
出なければこの時期だ、また如何わしいホテルで一泊していただろう。
「遥々山梨まで、いらっしゃいませ。」
そう言って、和服の女将さんが迎えてくれた。宿帳に名前を書いて小さな二人の荷物を渡すと、時間が無いからと早川は高見真知子を連れて待たせていたタクシーを走らせた。
そこは富士をいただき、四方を山に囲まれた別天地だった。
「早川、川がこんなに綺麗だ!」
彼等の地元だと、真っ白な藻の様な水生植物がフワフワしていて、泡がドブらしいアクセントに浮いている。
しかしここは水が透き通る、正にせせらぎだった。
「山も凄いぞ!見ろ高見、なんだこりゃ全部山だ!」
しかし、ちょっと気温が低い。北東に上がって来たし、高地は寒く感じるモノだが。
「おい、ほら・・いいから!」
早川はその小学生の時から着ていると言うジャンパーを投げて寄こした。
「ありがとう・・」
少し、温もりが残っていて彼の部屋の匂いがする。温かな家庭の匂い、それは高見真知子には懐かしい香りだった。
「よし、戻るぞ!」
もう終わりなのかと、顔に出していたのかもしれない。
「だってお前、風邪ひくぞ?明日もちょっと時間あるし、上着かなんか長い靴下とか買って出直しゃいい。それに、あの宿は飯を見て決めたんだ」
そう言うと、早川は街に向かって歩き出した。高見真知子もその彼のジャンパーに包まれながらそれを追いかけた。
「美味しいです!いやこれはなんのお肉ですか?・・おい、高見イノシシの鍋なんだってよ!旨いぞ、早くお前も食えよ!」
食事の世話をしてくれる、仲居さんと話しながら早川はそれを満喫している。
「うん・・美味しいな。私はこのそばが好きだ」
豪華は豪華だが、海ではなく山の幸メインで最初は戸惑った。山菜の天麩羅など普段なかなかありつけない珍味だ。
「ぼたんて、服のヤツかと思うよな!」
「フフ、バカね・・」
食事をしながら、三人は笑っていた。そして、ではお風呂にと薦められた。普通、こう言った部屋で食事が出来る旅館はその間に布団を用意してくれる。
サッサと風呂支度して出ていく早川。その時高見と仲居の女性は目が合った。会釈して何事も無かったように、彼女も風呂へと向かって行った。
「いや、別府も良かったが・・こっちも良かったね〜」
早川を高見真知子が待っていた。
「私が湯冷めをするだろう・・お前と言うヤツは」
別に待たなくていいだろうにと、襖を開けた。そこには大きな布団が一枚しかなかった。
「!?」
「婚前旅行かなにかと思ったのだろう・・」
「俺ちょっとフロント行ってくる!」
そんな早川を制止する高見真知子。
「お前とて男、少しは期待して誘ってくれたのだろ?従業員の人はもうやっと落ち着く頃だ、手間を掛けるな。」
高見真知子は早川の真意も察していた。
「それに、近ければ話しやすい。お前は向こうを向いて寝ろ」
それを聞くと、早川はニヤッと笑った。
「・・なぁ、お前は本当に誰なんだ?」
「当ててみろ」
そればかりだ、と早川は早くも降参する。だが、似ていないのだ、早川が知る誰とも。もはや歪み過ぎている。
「あっちゃんと私、どちらか決めれたか?」
「いや・・」
「どちらでも無いは許されないと言った」
これにも早川は参った、やはり思考を見抜かれている。
「早川、私は眠いよ・・」
そう言うと自分の背中の方を向いた高見真知子は、またあの時の様に吐息をそこに感じさせて眠りに落ちていた。
早川はただ無言で、心が空っぽになったような顔をして壁をジッと見ていた。
タクシーを拾って、早川が予め予約していた宿に着く。それも偶然キャンセルが出たそうだ。
出なければこの時期だ、また如何わしいホテルで一泊していただろう。
「遥々山梨まで、いらっしゃいませ。」
そう言って、和服の女将さんが迎えてくれた。宿帳に名前を書いて小さな二人の荷物を渡すと、時間が無いからと早川は高見真知子を連れて待たせていたタクシーを走らせた。
そこは富士をいただき、四方を山に囲まれた別天地だった。
「早川、川がこんなに綺麗だ!」
彼等の地元だと、真っ白な藻の様な水生植物がフワフワしていて、泡がドブらしいアクセントに浮いている。
しかしここは水が透き通る、正にせせらぎだった。
「山も凄いぞ!見ろ高見、なんだこりゃ全部山だ!」
しかし、ちょっと気温が低い。北東に上がって来たし、高地は寒く感じるモノだが。
「おい、ほら・・いいから!」
早川はその小学生の時から着ていると言うジャンパーを投げて寄こした。
「ありがとう・・」
少し、温もりが残っていて彼の部屋の匂いがする。温かな家庭の匂い、それは高見真知子には懐かしい香りだった。
「よし、戻るぞ!」
もう終わりなのかと、顔に出していたのかもしれない。
「だってお前、風邪ひくぞ?明日もちょっと時間あるし、上着かなんか長い靴下とか買って出直しゃいい。それに、あの宿は飯を見て決めたんだ」
そう言うと、早川は街に向かって歩き出した。高見真知子もその彼のジャンパーに包まれながらそれを追いかけた。
「美味しいです!いやこれはなんのお肉ですか?・・おい、高見イノシシの鍋なんだってよ!旨いぞ、早くお前も食えよ!」
食事の世話をしてくれる、仲居さんと話しながら早川はそれを満喫している。
「うん・・美味しいな。私はこのそばが好きだ」
豪華は豪華だが、海ではなく山の幸メインで最初は戸惑った。山菜の天麩羅など普段なかなかありつけない珍味だ。
「ぼたんて、服のヤツかと思うよな!」
「フフ、バカね・・」
食事をしながら、三人は笑っていた。そして、ではお風呂にと薦められた。普通、こう言った部屋で食事が出来る旅館はその間に布団を用意してくれる。
サッサと風呂支度して出ていく早川。その時高見と仲居の女性は目が合った。会釈して何事も無かったように、彼女も風呂へと向かって行った。
「いや、別府も良かったが・・こっちも良かったね〜」
早川を高見真知子が待っていた。
「私が湯冷めをするだろう・・お前と言うヤツは」
別に待たなくていいだろうにと、襖を開けた。そこには大きな布団が一枚しかなかった。
「!?」
「婚前旅行かなにかと思ったのだろう・・」
「俺ちょっとフロント行ってくる!」
そんな早川を制止する高見真知子。
「お前とて男、少しは期待して誘ってくれたのだろ?従業員の人はもうやっと落ち着く頃だ、手間を掛けるな。」
高見真知子は早川の真意も察していた。
「それに、近ければ話しやすい。お前は向こうを向いて寝ろ」
それを聞くと、早川はニヤッと笑った。
「・・なぁ、お前は本当に誰なんだ?」
「当ててみろ」
そればかりだ、と早川は早くも降参する。だが、似ていないのだ、早川が知る誰とも。もはや歪み過ぎている。
「あっちゃんと私、どちらか決めれたか?」
「いや・・」
「どちらでも無いは許されないと言った」
これにも早川は参った、やはり思考を見抜かれている。
「早川、私は眠いよ・・」
そう言うと自分の背中の方を向いた高見真知子は、またあの時の様に吐息をそこに感じさせて眠りに落ちていた。
早川はただ無言で、心が空っぽになったような顔をして壁をジッと見ていた。