こんぺいとうびより
「何、冗談言ってるのよ・・・飲み過ぎなんじゃない?それか、二人きりだから雰囲気に飲まれてるんじゃない?」

「そんなことは断じてないよ。俺、今の会社に呼ばれて帰国して、社長との面談の時君と偶然再会して驚いたけど、その時やっぱり俺には静来しかいないんだなって思った・・・いや、この言い方だとちょっと違うな。俺は君と別れてから他の女性と付き合うほどその想いが強くなっているのを自覚していた。君と再会して確信したんだ。」

浩斗はおもむろに手を伸ばし、静来の腰まであるストレートの黒髪を愛おしそうに撫でる。

その手の感覚が懐かしくて無意識に浸ってしまいそうになり、静来は体を引いた。浩斗の手が離れる。

「俺達、別に気まずくなって別れたわけじゃないだろ?お互いに飽きたわけでもない。俺は勤めてた会社を辞めて北欧行きを決めて、君も社会人になって仕事に熱中していて・・・お互い夢があってそれを優先させようって理由だったわけだし。」

「・・・。」

───仕事を選んだことは後悔してない。だけど、あの頃私随分泣いたな。

「でも今は──もちろんまだまだゴールとは思ってないけど──お互い仕事でもある程度のこと成し遂げて、ある程度の地位にいて・・・俺もこれからは日本にいるし、落ち着いてるわけだろ?お互い相手もいないし。」

「確かに当時は好きなまま───熱を持ったまま───別れたわ・・・でも、正直今はあなたのこと完全に同僚としてしか見られないわよ。」

「じゃあ、熱が冷めているかどうか確かめてみる?いきなりキスはあれでも、ハグでもしてみようか。」
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