こんぺいとうびより
「浩斗・・・。」

「プルルル・・・。」

その時、すぐそばの台の上に置かれた電話が鳴った。

「電話・・・。」

静来は浩斗に背を向け電話に応答する。

「もしもし?」

『あ、三坂さん?尾島だけど。』

「部長、どうされました?』

『申し訳ないんだけどついでに持ってきてほしいサンプルがあって・・・今手離せなくてさ。』

「持っていきますよ。」

『悪いな・・・番号言うよ、結構数あるんだけど、メモるものある?』

「はい、どうぞ。」

『いい?言うよ・・・S2675-6885A・・・。』

静来は電話機の隣にあったペンとメモを使って、尾島が言うサンプル番号を復唱しながらメモしていく。

番号を控えることに集中していた彼女は背後に浩斗が近づいて来ていることに気がつかなかった。

「・・・G4658ー3577・・・K!?」

ペンを握る右手に浩斗の手が重なって、声に動揺が表れてしまう。文字も大きく乱れた。

『・・・ん?大丈夫?』

「ご、ごめんなさい。大丈夫です。」

静来は後ろを振り向いて浩斗に目で『やめて』と懇願する。すると彼が手を離したのでホッとした。

しかしそれも束の間、今度は後ろからぎゅっと抱きしめてくる。

静来は何とか平常心を保とうと全身を固くし、早く英数字の羅列が終わってほしいと切に願いながらペンを動かした。

ふいに受話器を当てていない方の耳元に唇が羽のように柔らかく触れ、ぞくっとして全身が熱くなってくる。

続いて浩斗は静来の長い髪を真ん中で左右に分けてから体の前にやり、うなじを(あらわ)にするとそこに口づけた。
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