こんぺいとうびより
「へ？いいの？」

「いいから言ってるんでしょ。」

コーヒーを飲み干しながら穏やかに笑うカイの笑顔にさよかは見とれた。

「さよかは、今日はこれからどこか行くの？」

「ううん。特に・・・。」

その言葉を聞くとカイはスマホを操作し、直後にさよかのスマホが震えた。

「今、住所送った。ここからバスですぐだから。これ鍵。あっ、早速もらったキーケースに変えよう。」

カイは新しいキーケースに鍵を付け替えるとさよかの手のひらに乗せた。

「あ、俺、そろそろ会社戻る。仕事終わったら一応連絡するから。適当にくつろいでて。家にある食べ物も食べてもらってていいし。風呂も入ってもらっていいし。」

「あ、ああ、ありがとう。超助かる。」

カイの勢いに押されながらお礼を言うと、彼は立ち上がった。

「じゃ、後で。」

さわやかな笑顔で去っていく長身の後ろ姿を見送りながらさよかは喜びに震えていたが、しばらくして複雑な気持ちが込み上げてくる。

───うーん、お互いの家には何度か行ったことがあるけど、泊まったことはない。でも、あんなになんてことないように言われると・・・カイはうちのこと妹みたいに思ってるっぽいからな。

そう思いつつ自分の手にあるキーケースに目をやると自然と笑みがこぼれてくる。

───こんな風な展開で自分の手元に戻ってくるなんて思わなかったな。あ、箸、ついでに自分の分も作ったじゃん！水浸しの家戻ってとってこようかな。

さよかはキーケースを握りしめて軽やかに走り出した。
< 155 / 189 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop