こんぺいとうびより
「はい、チーズダッカルビ!!」

男性のいつものかけ声でカメラのシャッターが切られた。


年に一度神社で行われるお祭りの日。

その神社の近くの川沿いは公園のようになっていて、川の向こう側には高いオフィスビルが並んでいる。

オフィスの中では予算がどうとかノルマがどうとか、現実的な風景が繰り広げられているに違いないが、ビルの側面に規則正しく並ぶ窓から漏れる灯りは外から見ると幻想的にすら見える。

今年もお祭りの帰り道、衣緒と鈴太郎は若い夫婦とその赤ちゃんに会った。

去年入籍した後に行ったお祭りの帰り、赤ちゃんが衣緒の浴衣に吐き戻してしまい、クリーニング代を払うという若夫婦の申し出を「じゃ、また来年、ここで会えたら、あんず飴おごってください。」と言い残して断り、下駄のまま走って逃げたのであった。

入籍した日に赤ちゃんのものが服にかかったことを、衣緒は縁起が良いと思っていた。

「いるかな?」

「いるといいね。さやのちゃん、大きくなってるだろうね。」

鈴太郎が聞くと衣緒はそわそわした様子で答えた。

昼間はまだ暑いが、夜風は日々秋の気配を増していてゆっくりと歩く二人を涼やかに包んでいた。

「あっ!」

衣緒の表情がぱっと明るくなる。

いつものベンチに彼らはいて、満面の笑みであんず飴を掲げて見せた。

「こんばんはー!」
「わーい!やっぱり会えた!」

若夫婦が嬉しそうに言う。

「こんばんは。」
「こんばんは。さやのちゃん、大きくなりましたね。」

鈴太郎と衣緒が挨拶を返すと、男性がスマホを取り出した。

「再会を祝して記念撮影しましょう!」


写真撮影が終わると、赤ちゃんがベンチに座る衣緒の近くにやって来て彼女のお腹を触り、にこにことし始めた。

「ん?なぁに?さやのちゃん。ここは、おなか、ぽんぽんだよ。」

そう言うと赤ちゃんはきゃっきゃっと声を出して笑い始めた。

「ぽんぽんぽん♪ぽんぽんぽん♪」

衣緒が節をつけて歌うと、赤ちゃんは手足をバタバタして喜ぶ。

そんな二人の姿を鈴太郎が幸せそうに見つめていた。
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