お仕えしてもいいですか?
「煩わしいことはすべて私にお任せください。お嬢様は堂々とされていればよいのです」
その言葉通り、犬飼は木綿子のためにありとあらゆる手を使って、世話を焼いていく。
犬飼のマンションに来るとき、木綿子は呼吸と歩行以外のすべてを犬飼に担ってもらっていると言っても過言ではない。
そうやって主人と執事として一緒に過ごすうちに次第に木綿子も主人らしい行動に目覚めていく。
今ではマンションのドアを開けると自然とスイッチが切り替わるようになった。
(本当に不思議よね……)
キャンドルの火がゆらゆらと揺れるのを見ながら木綿子は考える。
自分の何が、犬飼をこのような行動に掻き立てるのか。
木綿子の実家は特別、家柄が良いということはない。父は公務員、母は専業主婦のいわゆる一般家庭の出である。木綿子のイメージするお嬢様の姿とは程遠い。
自分がなぜ彼のお眼鏡に叶ったのかは、永遠の謎ではあるが、目に留まってしまったのなら仕方ない。
昼は頼れる上司、夜は忠実な執事。
犬飼の主人となって三か月経った今では、執事のいる生活も悪くないと思っている。