お仕えしてもいいですか?
誘われるままに何度か食事に同行して、ついには犬飼から《《告白》》されたからだ。
最初は冗談だろうと疑い、驚いたけれど、「お願いだ」と必死で訴える犬飼の表情を見て木綿子の心境にも変化が訪れる。
(覚悟を決めるのよ、木綿子……)
断るという選択肢は毛頭なかった。
初めこそ犬飼のことをただの上司としか思えなかった木綿子だが、食事を共にするうちに、分不相応だと知りつつも、彼に惹かれていた。
仕事以外での犬飼の人柄を知った今となっては、彼の存在はなくてはならないものになっていた。
あいにく人間関係のピラミッドを登山する勇気は持ち合わせていない。しかしながら、木綿子のためにあえて下山してきた犬飼を拒絶することもできない。
これまで堅実な生活を送ってきた木綿子にしては珍しい大冒険である。
かくして、ふたりのただならぬ関係は誰にも知られることなくひっそりと始まったのである。