没落姫の溺愛婚②~双子の旦那様に愛されすぎて私、困ってます~

誰よりも愛しい旦那様





「ねぇ、彩希。 覚えておいて」

 あの男が走り去った後、芳哉がふと言葉を溢していた。

 その言葉に吸い寄せられるように彼を見上げると、さっきとは違う、優しい表情がそこにはあった。

「絶対、捨てないから。
彩希は、私達の唯一無二の妻。
他は、いらない」

 彬親に抱きしめられたままの彩希の頬をそっと撫でて、ふいに、柔らかな笑みを浮かべる。

 そして、彩希の唇にそっと口づけた。
 本当に、触れるだけの、優しい口づけ。

 たった触れるだけ。
 一瞬だけの、ものだったのに。

 その僅かな時間に沢山の想いが込められているように思えて、彩希は知らず知らずのうちに、耳まで真っ赤になっていた。

「私も彬親も。
ずっとずっと、彩希だけを愛してる。
だから、彩希も私達を信じて、もっと頼って」

 芳哉の言葉を聞いて、なんとなく、ようやく理解できた。

 怖くて伝えられていなかった、元婚約者からの文。

 二人は、きっと。
 彩希が、それについて頼ってくるのを、ずっと待ってたのかも知れない。

 だって、彬親が言ったから。
 知っているのだと。

 もしかしたら、二人は。
 こうなるかもしれないと思ってたから、帰りたかったのかもしれない。

 もしそうなら、なんて素敵な旦那様なんだろう。
 優しくて、温かい。
 誰よりも愛しくて仕方ない、頼もしい旦那様。
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