キミが教えてくれたこと(改)
はじめまして、新しい世界。
この街に来たのは1週間前。温かい春の気候が一変し季節外れの雨が降る少し肌寒い日だった。
父の転勤で引っ越すことになった私は、新しい家へと向かう車の中で流れゆく景色を見ていた。
「どうだ?綺麗な街だろ?」
運転中の父はバックミラーで後部座席に座る私の顔をチラリと見て笑顔でそう言い、助手席に座る母は窓の外を見ながら父の言葉にほんとねー、と胸を躍らせているようだ。
「ほら、あれが茉莉花の通う高校だよ」
そう言われて視線を向けると放課後に当たるだろう今の時間帯は、傘をさした学生達が正門から出て来ている所だった。
ふぅ、と無意識にため息が出た時、遠くからサイレンの音が聞こえ前から救急車がこちらに向かってくるのが見えた。
救急車は私達の車の横を通り過ぎる。
綺麗な街並み、交通量、人の多さ。
全てが先日まで住んでいた場所とは似ても似つかない程賑わっている。
「友達たくさん出来るといいわね」
朝食を食べている時、温かいココアを出してくれる母のその言葉に曖昧に頷きながら私は新しい制服に腕を通し先日の雨が嘘みたいに晴れた今日、この2年3組の生徒になる。
「林 茉莉花さんです。みんな仲良くするんだぞー」
国語の教科担当である担任の先生が黒板に私の名前を書いた後、席に座る生徒達に呼びかけた。
はい、一言!と言われ、どくどくと鳴る心臓を抑えつつ蚊の鳴くような声で「よろしくお願いします…」と呟いた。
「じゃあ林の席はあそこな」
指さされた場所は教卓から見ると右端、窓際の一番後ろの席だった。
私は鞄を両手に抱え、物珍しそうに視線を向けてくるクラスメイト達の間をそそくさと移動し指定された席に座った。
「じゃあ今日のホームルームは…」
先生が話し始めクラスメイトの視線が先生に注がれているのを確認し、緊張で大きく脈打っていた心臓を抑え息を長く吐き落ち着かせる。
下を向き机を見ていた視線を先生に向けた時だった。
「よっ!俺、天野 晴人!よろしくな!」
小声で明るく話しかけてきたのは右隣の男子生徒だった。
彼は目尻を下げ人懐っこい笑みを浮かべながら先生に隠れるように身を縮めてこちらを見ている。
くっきりとした二重まぶたを持つ彼の真っ直ぐな視線に一瞬どきりとしたが、いつもの癖で口を閉ざしたまま頷くしか出来なかった。