キミが教えてくれたこと(改)
蝶は舞う、一筋の光を目指して。
天野君に自分の気持ちを話してから少し心が軽くなった気がする。
そんな自分の変化に驚きつつも、温かい気持ちになる。
「おはよ!」
いつもの様に天野君は私に笑顔を向けてくれる。それがとてもくすぐったくて、そして…
「オ、オハヨウゴザイマス…」
まだ緊張してしまう。
「おいおい、待て待て待て」
天野君はその場から離れようとする私の鞄を掴み自分の方に引き寄せた。
自然と距離が近くなる。
「集合」
頬をヒクつかせる私を他所に一言そう言い放つと、そのままズルズルと鞄を引っ張り例の校舎裏に連れて行かれてしまった。
「はい、座れ」
天野君は校舎を背にしゃがみ込むと自分の隣を指し、私にそう促した。
私は言われるがまま、天野君の隣にしゃがみ込む。
「俺らって友達になったよな?何でそんなよそよそしいの?」
眉を寄せながら尋ねられ、私はおずおずの答えた。
「…だって、女の子とは普通に話したことあるけど男の子とあんまり話したことないし…。それも人前で…緊張するよ」
天野君にはわからないだろうけど、と小さく付け加えるとなるほど…という顔で目を大きくさせた。
「そっか、同性の方が話しやすいよな。まぁ俺みたいなイケメンだと誰だって緊張するし他の女子に嫉妬されるよな、うんうん」
「………」
「いや、冗談だって。突っ込めよ」
苦い顔をした私を見て天野君は笑った。
「この場所だと不思議と話せるんだけどな…」
体育座りをしている膝の上に顎を乗せて言うと天野君はんー…と何か考えているようだった。
「まぁここだと他の目も気にならないしな…。じゃあさ、何か話したい時とか相談したいことがあったら自分の机を3回叩いてよ」
「机を?」
「そう。そしたらその次の休み時間はここに集合っていう合図。俺も茉莉花と話したい時はそうするからさ」
「…わかった」
「はい、じゃあ約束」
天野君はそう言って右手の小指を出す。
戸惑ってその小指を凝視していると私の右手を攫い小指を絡め、数回上下に揺らしするりと名残惜しそうに離れた。
頬に熱が集中する。
「まずはさ、その天野君ってのやめようぜ。俺は茉莉花って呼んでんだからさ。茉莉花も名前で呼べよ」
「な!無理無理!ハードル高いよ!」
「なんでだよ、名前で呼ぶことで距離が縮まるんだよ!」
「無理だってばー!」
「茉莉花、変わるんだろ?」
顔の前で手を大きく降っているとその手を掴まれ、あの真っ直ぐな目に射抜かれた。
「ほら、言ってみ?」
目尻を下げ優しく私に問いかける。
「…は、ると…」
「もっ回」
「なっ…!」
「茉莉花」
彼はズルい。自分の顔の作りを熟知している。
「晴人…!〜〜っもういいでしょ!」
恥ずかしくてぎゅっと目を瞑った。
この上なく私の顔は茹で蛸になっているに違いない。
「ははっ、悪い悪い苛めすぎた」
大きな手で私の頭をくしゃくしゃに撫でながら悪気なく笑う顔を拗ねたふりをしながら指の隙間から覗き見た。