キミが教えてくれたこと(改)
「いたたた…ごめんなさ…あ、林さん!」
じんじんする鼻を押さえて呼ばれた方を見ると曲がり角でぶつかったのはクラスメイトの川瀬さんだった。
「ご、ごめんなさい、私あの、前見てなかったので…」
「そんなそんな!私の方こそごめんね!持ってた資料見ながら歩いてたから…!」
そう言って視線を辿ると廊下にはプリントが数枚散らばっていた。
「わ、ひ、拾います!」
「百合どうしたの?大丈夫?」
プリントを拾おうと手を伸ばした先に別のクラスの女の子が心配そうに話しかけてきた。
「大丈夫だよ!私がよそ見してて…林さんごめんね?良かったらこれ使って冷やして?」
川瀬さんがスカートのポケットから出したのはふんわりとした生地のハンドタオルで、私の手にはプリントでは無くそのふわふわのハンドタオルが握られていた。
柔らかいピンクと裾に縫われたレースと小さな薔薇の刺繍がなんとも彼女らしい。
「百合、何か手伝おうか?」
「ううん、大丈夫!職員室にこれ持ってくだけだから。林さん本当にごめんね?」
「え、あ…」
大した謝罪もお礼も言えないまま、彼女は颯爽と職員室に向かってしまった。
転校して来た初日、初めて話しかけてくれた女の子は川瀬さんだった。
とても綺麗で品があり、晴人同様いつも誰かに囲まれている。
授業ではいつも率先して参加し、先日のテストでも学年で上位だったと誰かが噂していた。
先生にも信頼されていて誰にでも分け隔てなく接する事が出来ていて羨ましい。
あんな風になりたいな…。
授業中先生に当てられ、黒板に白いチョークで数式の答えを書いている彼女の後ろ姿を見ながらぼんやりとそう考えていた。
「……。」
コン、コン、コン。
私は持っていたシャーペンで控えめに机の右端を叩くと、右隣に座っている晴人が一瞬肩をビクつかせそろりと私を見た。
きっとミーコ呼ばわりされてまだ怒っていると思っているんだろう。
困ったように眉を下げながら私の様子を伺う晴人をチラリと見たが、いい気味なのでそのまま気付かないフリをして授業を受ける。
私の事で困っている晴人がなんだか少し可愛らしくて、もう少しその顔を見ていたいという気持ちを自然と上がる口角と一緒に手で隠した。