キミが教えてくれたこと(改)
「川瀬?」
シャーペンで合図した次の休み時間、晴人と私は例の校舎裏にいた。
しゃがんで腕を組みながらそう聞いてくる晴人にこくんと頷いた。
「優しいし、誰とでも仲良いし…。すごいな、羨ましいなって思って」
「確かに、絵に描いたような優等生だよな。聞いた話によると家が金持ちでバレエとかピアノとか日本舞踊とかいくつも習い事してるって聞いたことある」
お嬢様なんだ…だからあんなに品があるんだな。
「一見近寄りがたそうだけど、愛想もいいしな〜。美人だし」
晴人のその言葉になんだかムッとしてしまう。
「な、なんだよ…」
晴人がたじろぎながら自分の襟足をかいた。
「別に?晴人って川瀬さんみたいな美人さんがタイプなんだなって思っただけ!」
「はー?なんでそうなるんだよ?」
「…別に?」
なんだか自分でもよくわからない。
今はそんな話してる訳じゃないし、わざわざ私の話を聞いてくれてる晴人にこんな態度をとってる自分にも嫌気がさす。
後に引けなくて、なんて言っていいかわかんなくてそっぽを向いてしまった。
「何怒ってんだよ?」
「別に怒ってない」
「だったらこっち向けよ」
「やだ」
何を意地はってるんだ…
後にも引けなくて、二人とも黙ってしまった。
「…茉莉花、ほらこっち向けって」
優しく囁く晴人の声と、右耳に自分の髪がかけられる指の感覚がして勢いよく晴人の方を向いた。
「な、ちょっ…!」
「ははっ、やっとこっち見たっ」
当の本人は愉快そうに笑い、私は触れられて熱を持った耳を手で隠しながらそんな晴人を赤い顔で睨みつけた。
「俺らはさ、他の誰かになることは出来ないし他の誰かも俺らになることは出来ない。川瀬には川瀬の、茉莉花には茉莉花のいい所があるよ」
「そう…かな…」
晴人はいつもその綺麗な瞳で真っ直ぐ自分の気持ちを伝えてくれる。
「そうそう!茉莉花って実は話してみると結構明るいし、たまにネガティブが出るけど話してて楽しいし、それに…」
そこまで言うと晴人がニヤニヤと悪戯っ子のように私を見てきた。
「な、なに?」
「ヤキモチ妬く可愛いとこもあるし?」
晴人の言葉にボッと顔が赤くなるのがわかった。
「だ!誰が!!!」
「はははっ」
晴人といると感情がすごく忙しい気がする。