キミが教えてくれたこと(改)
それからは何度かクラスメイトに声をかけようと試みたが、なかなか上手くいかず結局そのまま放課後になってしまった。
「はぁ…」
日誌を出しに職員室へ行った帰り道の廊下で無意識に深い溜息をついてしまった。
なんだかこのまま何も出来ないで一年過ぎてしまいそう…。そんな事を思ったが、いやいや!とマイナスな思考回路を消し去る様に首を左右に振る。
「今日がダメなら明日!明日がある!」
幾分か以前より少し前向きになった自分の考えでなんとか気持ちを切り替える。
「まーりか!」
「うわあああっっ!」
「なんだその色気ねぇ反応」
突然声をかけられ振り向くとそこには晴人が立っていた。
「ちょっと!驚かさないでよ!晴人っていっつも神出鬼没なんだから!」
「茉莉花が気付いてなかっただけだろーっ」
どくどくと脈打つ心臓を抑え晴人を睨みつけた。
晴人は気配を消すのがうまいのか、いつも知らない間に教室にいたり声をかけられたりで心臓に悪い。
「で?」
「な、なにが?」
「成果の程はいかがですか?」
落ち着いて来た心臓を宥めつつ聞き返すと晴人は両ポケットに手を突っ込みながら片方の口角をあげてそう聞いた。
先日、私が宣言した事を言っているんだと即座に分かったため、今日あった出来事を思い出す。
「うーん、まぁ、ぼちぼち…」
「ほー、前進前進」
晴人は嬉しそうに笑った。
「そ、それより!先生達に迷惑かけちゃダメだよ!」
晴人の笑顔にドキリとし、気付かれないようにそっぽを向きながら職員室の先生の机にあった封筒を思い出しそう言うと晴人は眉間に皺を寄せた。
「何が?俺すげー真面目じゃん」
「どこが?真面目な人が授業中に変な顔なんてしません。」
「あれは茉莉花の緊張をほぐしてやろうっていう俺の純粋な優しさだろー?善意の行動だ。」
「なーにが善意の行動だか!面白がってたくせに」
「茉莉花、お前言うようになったな…。生意気な奴めっ!」
「わっ、ちょ!やめて!」
晴人は大きな右手で私の頭をくしゃくしゃに撫で回し、楽しそうに笑った。
私は乱れた髪を直しながら晴人を睨みつける。
「日直の仕事終わった?」
「終わったけど…」
「じゃあ駅まで一緒に帰ろうぜ」
「えっ…」
晴人は当たり前の様にそう言い、私の反応に目を丸くしている。
「なに?なんか予定ある?」
「べ、別に…無いけど…」
「じゃあいいじゃん。鞄は?教室?」
「う、うん」
「なら取りに行くぞ、ほら」
そう言って教室に向かって歩き出す。
もしかして、待っててくれた?
晴人の後ろ姿を呆然と見ながらそんな事を思っていると、後ろを振り返り「茉莉花行くぞー」と声をかけられドキドキしながら小走りで晴人の横に並んだ。