キミが教えてくれたこと(改)
ホームルームが終わり、時間を知らせるチャイムが鳴った。
私は次の授業で使う教科書を鞄から取り出しパラパラとページをめくっていた。
「林さん!」
突然名前を呼ばれ見上げると一人の女の子がにこにこと笑顔で机の前に立っていた。
「私、学級委員の川瀬 百合です!何か困ったことがあったらいつでも言ってね!」
ふわふわのロングヘアーを揺らしながら笑顔で話しかけてくれた。
その数歩後ろにも何人かの女の子がこちらを見ている。
えっと、何か言わなきゃ…、そう思っているのにうまく声が出せない。
悪い事をしてるわけではないのに、何か話そうとすればするほど心臓が喉まで上がってきているんじゃないかと思うくらいどくどくと血が体中に巡り出す。
「あ…はい。」
やっとの思いで出た言葉は自分でも思う程素っ気なかった。
川瀬さんは少し眉を下げて笑うと後ろにいる女の子達の輪に入っていった。
ああ、またやってしまった。
せっかく話しかけてくれたのに、きっと嫌な奴って思われただろうな…。
グルグルとマイナス思考になり、何も考えたくなくて机に顔を伏せた。
視界は暗くなり周りの騒がしさが耳に入る。
こうしてると誰も話しかけてこないし、一人の世界になれることをずっと前から知っていた。
早く時間が過ぎて欲しい…そう思ってしまうくらい、この教室という名の小さな世界は私にとって息苦しいものだった。
「じゃあ、今日はここまで!」
担任の合図で生徒達は鞄を持って教室を出て行く。
やっと長い長い一日が終わった…。
全ての授業が終わり、机の中にある教科書を鞄に詰めながら深いため息をついた。
「なぁなぁ!この近くに引っ越してきたの!?」
隣から楽しそうにそう言って来たのは、朝話しかけてくれた隣の席の男の子だった。
「前はどこに住んでたの?電車通い?ってか字綺麗だな!」
答えてもいないのに次々くる質問に困惑する。
っていうか勝手に人のノート見てるし!
恥ずかしくて勢いよくノートを片付けて鞄に押し込んだ。
「そうだ!歓迎会しようぜ!ファミレスとかでさ、みんなと一緒にパーっと…っておい!」
話を無視して帰ろうとする私を彼は呼び止める。
「ほ、放っておいてくださいっ…」
振り向かずに一言残し、私は足早に教室を出た。
脳裏には嫌な思い出が蘇る。
ああ、もうあんな思いはしたくない…!
一人の方がマシ!
自宅に帰るまでの間、自分にそう言い聞かせながらずんずんと歩いていく。
電車を乗り継ぎ、数分歩くと見えて来た自宅の扉に鍵をさし、ただいま!と乱暴にドアを開け自室に入って持っていた鞄を放り投げベッドにダイブする。
「はああーーっ疲れた…」
たった一日、されど一日。
緊張の糸が切れた私は海に沈んでいくように深い眠りに誘われてしまった。