キミが教えてくれたこと(改)
「よし、じゃあ行ってくる!」
お昼休みのチャイムが鳴り、私は小声で右隣にいる晴人に話しかけた。
「健闘を祈る」
親指を立て小声で返してくれた晴人に私も小さく親指を立てて椅子を引くと、ターゲットである人物へ近付いた。
「か、川瀬さん、今からちょっといいかな?」
声をかけた彼女は目を大きく見開きはい、と頷いた。
そんな私達を見た周りのクラスメイト達は不思議そうに顔を見回している。
廊下を出て階段を降り、人気の無い校舎裏へと向かった。
購買へ向かうつもりだったのか、川瀬さんは財布を握りしめていたので手短に話しをすませた方がいいなとなんとなく頭の隅で考えていた。
「あの、川瀬さん。私…」
「ちょ、ちょっと待って!私、今手持ちこれだけしか無くて…」
そう言いながら彼女はおもむろに財布からお金を取り出そうとする。
「え、え!?どういうこと!?」
「え、口止め料…?」
「な、なに言ってるの!そんなのいらない!しまって!!」
なんと購買に行く為では無く私が口止め料を要求すると思い財布を持って来ていたのだった。
「だって…こういう取引の時は必ずお金や自分の大切にしてる物を渡すでしょ…?私の大切にしてる物って言えば…このキャラクターの限定プレミアカードなんだけど…。しかも声優さんの直筆サイン付き」
「へー…プレミアカードとかあるんだ…。ほんとだ、なんかカードがキラキラしててサインも……って、いやいやいや、ちょっと待って、落ち着いて!取引がしたくて呼んだわけじゃないよ!」
川瀬さんのきょとんとした顔に私は逆に首を傾げた。
なんだか天然さん…???
「あのね、川瀬さんにとっては思い出したくない過去のことだったと思うけど、私は話してくれてすごく嬉しかった」
川瀬さんは驚いたように大きな目を見開いている。
「実は…私、周りの目を気にして自分の意見を言うのが苦手で…ずっと周りに合わせて生きてきたの。でも、それが他の人にとっては人任せで八方美人って思われてて…。人にどう思われてるんだろって考えるとだんだん自信も無くて、怖くて、それなら最初から誰とも関わらない方が傷つかずにすむって思ってた」
今でもあの時のことを思い出すと喉の奥がぎゅっと締め付けられる感覚がする。
きっと彼女達にとっては何気ない一言だったのかもしれない。
だけどまだ私は乗り越えられずに立ち止まったままだった。