キミが教えてくれたこと(改)
「まーりかちゃん!おはよ!」
「!!!」
朝、いつもの様に登校していると百合が後ろから両肩を叩いて挨拶を交わしてくれた。
だが、私の体は晴人のスパルタ指導で全身が筋肉痛だったため、驚きとともに痛みが走る。
なんとか耐えようと思ったが体は正直なもので、肩を抑えながら少し前のめりになると百合が大きな瞳を目一杯開いて心配そうに顔を覗き込む。
「え、え、茉莉花ちゃん大丈夫!?」
百合は焦りながら近づいてくるが私は痛みに耐えつつ右掌を出しそれを制止した。
「だ、大丈夫…大丈夫だから、これ以上私の体に触れないで…」
百合は頭の上にはてなマークがたくさん浮かんでいる。
「体痛いの?大丈夫?」
「あ、うん、ちょっとね、寝違えちゃって…へへ」
なんだか気恥ずかしくてリレーの練習をしている、とは言えなかった。
「そっか、ごめんね。気をつけてね?かばん持とうか?」
気遣ってくれる百合に大丈夫だよ、と伝え私は胸を撫で下ろした。
若干前のめりになって教室に入り、最近仲良くなったクラスメイト達におはよーと言われて返事を返している私を心配そうに見守ってくれていた。
「よし!今日はここまで!」
その声と共に地面に膝と両手をついて息を整えていた。
体育祭当日を目前に迎えた今日もまたグラウンドで練習をしていた。
「はぁっはぁっはぁっ…だ、だいぶ早くなったよねっ…」
「最初の頃と比べたらかなり上達したぞ!確実にタイムが縮んでる!」
隣に一緒に座り込み晴人が珍しく褒めてくれた。
「ああー、よかったーー!なんとか本番までには間に合って」
持っていたミネラルウォーターを一気に飲み干す。
ゴクゴクと喉が鳴り、乾きが一気に潤いを増していく。
「とうとう明日だな。すげぇよ、よく頑張ったな」
晴人はそんな私を見て優しく微笑み頭を撫でてくれた。
「は、晴人…ありがとね!」
その手から逃れるように顔を真っ赤にし、視線を地面に向ける。
「…珍しい。茉莉花が素直だ」
「な!」
顔を上げると晴人と至近距離になった。
「……ま、まぁ俺の指導のおかげだな!」
「!わ、私のセンスの賜物よ!」
二人とも顔を赤くして勢いよく離れた。
顔の熱がおさまらない。
「体育祭、みんなで笑って過ごそうぜ。茉莉花なら絶対大丈夫」
「…うん」
晴人の大丈夫、は私にとって魔法の言葉だ。
いつも優しく包み込んで励ましてくれる。それだけで何でも出来るような気がするから。
「私、もう一本だけ走ってみる!」
「おい、あんま無茶すんなよ!」
「大丈夫ー!」
笑顔で大きな声で叫んだ。
「晴人が励ましてくれたから、私頑張れる!最高の体育祭にさせるよ!」
そのままグラウンドの向こうまで走り晴人に教わった事を復習しながら自主練習をする。
「…ばーか。嬉しいこと言ってんじゃねぇよ」
私の後ろ姿を見ながら晴人が顔を赤くしてぼそっと呟いたのは誰も気付かない。