キミが教えてくれたこと（改）

体育祭当日。
私はみんなで作った衣装に着替えを済ませ、教室で使っている自分の椅子を持って運動場まで移動していた。


「お、おいおいおい。なんだよ、それ」

「え？」

その途中、誰もいない階段の踊り場で鉢合わせた晴人は私の服装を見て顔が赤いやら青いやら、複雑な表情をしている。


「なにって…パニエだけど…」


私のクラスは白い無地のTシャツやパーカーにそれぞれ好きなカラーを選び女子はパニエ、男子は7分丈のパンツスタイルまたは体操服とどちらでも選べるようにした。

私は白い薄手の半袖パーカーに淡いラベンダー色のパニエ、靴下も同じ色で合わせ靴は白いスニーカー。
いつもストレートで胸まである髪は邪魔になるのでお団子にしてある。
そのお団子の横には先程更衣室でクラスの女子がついでに作ったから、とキラキラしたゴールドのスパンコールで出来た星型のバレッタがついている。




「パニエだか、パエリアだかしらねぇけど…何でそんな短けぇんだよ！」


晴人の怒りの矛先は服装でもヘアスタイルでもなく、パニエの丈らしい。

確かに膝から15センチ程は上にあるが、見た目はパニエで中身はショートパンツになっているため着ている本人達はは特に気にも留めないんだけど…。


「そんなこと言われても…みんなこの位の丈だし…」

「あ、林さんこんなとこで何やって…」


晴人と話しをしていると少し上の階段の手摺りからクラスメイトの麻生君が身を少し乗り出し私を見つけると階段を降りながら話しかけて来たが途中で言葉を止め晴人には目もくれず茉莉花を凝視した。


「…えっと、どうかした？」

不思議に思い声をかけると我に返った麻生君は顔を赤くし、私持っている椅子を奪い取った。


「お、俺が持ってっとくから！」

いきなり大声を出したため、私は驚きそのまま彼の背中を見送った。

一部始終を見ていた晴人は眉間に皺を寄せジロリとこちらを見る。


「ほら！言わんこっちゃねぇ！」

晴人が何で怒っているか全くわからない。


「なによ、椅子を持ってってくれただけじゃない！そんなに怒ること！？」

「そうじゃねぇよ！…だあああもう！全部そのヒラヒラのせいだ！！」

晴人は頭を掻いてパニエを指差した。


みんなと一生懸命作って、晴人に似合ってるって言って欲しかったのに。
しかも晴人、体操服だし。
お揃いが良かったのに。

私はパニエの裾をギュッと握りしめた。


「…そんなに似合わないかな」

シュンとなる私に晴人は焦って私の目の前まで近づく。


「あ、いや、そうじゃなくてよ。その丈がさ…」

しどろもどろに答え、もう一度頭を掻いてそっぽを向いた。


「…そんな短いの履いて、他の男に脚見せてんじゃねぇよ」


え、と私は顔を上げる。

そこには不貞腐れた様な顔をしながら頭を掻いている晴人がいた。


顔と耳が真っ赤になって伝染する。


「似合ってるし、可愛いって。だから嫌なんだよ」


ーー可愛い。

初めて晴人に言われたその言葉に胸の奥がギュッとなる。


「茉莉花ちゃん！何してるの？整列するよー！」


階段の下から百合が声をかけて来た。


私は恥ずかしさのあまり、うんっと言って逃げるように階段を降りた。

先程の晴人の言葉にまだ胸がうるさい。


晴人の顔が見れず鼓動を抑えながら小走りで運動場に向かった。