キミが教えてくれたこと(改)
「今先生呼んでくるから、ちょっと待っててね」
百合に付き添われながら保健室に移動した。
外では全校生徒が整列し、得点発表を待っている。
「あーあ、負けちゃった」
誰もいない保健室。私は大きな独り言とともにベッドの端に座って上体を後ろにし、両腕で体を支え天を仰いだ。
「2位だろ?すげぇじゃん」
「うわ!晴人!いつの間に入って来たの!?」
私は無意味にベッドにある掛け布団で身を隠した。
「…でも見たでしょ?私があそこで転ばなかったら1位だったもん」
拗ねたように下を向き床から浮いている足を揺らす。
血が滲んでいるところから少し痛みが出る。
「…努力ってさ、必ずみんな報われるわけじゃねぇけどそれまでの過程は絶対裏切らねぇよ」
晴人は私の前にしゃがみ込み下から覗くように見上げてきた。
「1位取るより大切なもん、いっぱい手に入れただろ?」
たしかに。
クラスメイトとの交流、信頼、優しさ、どれも手に取るには零れ落ちてしまうような温かいものだった。
それを一つ残さず手に取れた気がした。
「…うん。そうだね」
微笑むと晴人は驚いて少し顔を赤くしてそっぽを向いた。
「それに…あー、なんだ…」
歯切れ悪く頭を掻く仕草をする。
「…すげぇカッコ良かったよ、茉莉花。見直したっつーか、なんつーか…」
「なによ?」
そっぽを向いている方に顔を向け自身の顔を近づけて問いただすと面白い程に焦っていた。
いつも晴人にされている仕返し。
晴人は私の後ろに逃げてベッドの上に胡座をかいて座る。
ちょうど背中合わせになって晴人の顔は見えなくなった。
「…俺はそういう茉莉花、良いと思うよ」
いや、なんていうか…!あー、んーっ…!と唸り声を上げながら晴人は襟足を激しく掻いた。
そんな晴人を振り返り見ていると髪から覗く耳は真っ赤になっていて、バレないようにクスッと笑った。
「晴人…?」
「…なんだよ」
「晴人と出会えてよかったよ」
「!………ばーか」
俺もだよ、と小さく呟く晴人の声を聞いて背中合わせで寄り添った。
体育祭、総合結果は2位。だと思いきや女装リレーでのまさかの投票結果1位。
その投票得点が加算され、後に私のクラスは見事学年1位となった。
「よくやったー!!」
「女装万歳!!」
「フーーー!!」
「ちょ!集団でスカートめくるのやめろってー!!」
投票一位を獲得した麻生君は歓喜のあまりふざけてスカートをめくってくるクラスメイト達から逃げ回っていた。
そして彼が女装に目覚めたかどうかは、また別の話し…。