キミが教えてくれたこと(改)
「ちょっと楓太、女子の会話にまざらないでよね!」
「お前がでかい声で俺の悪口言ってたんだろ!」
「悪口じゃないよ、ほんとのことでしょ?ほら、あんた奥手だから美月様が茉莉花ちゃんとのきっかけを作ってあげようとしたんだからね!」
「は!?何言って…!」
道下さんが腕を組みながらジト目でそう言うと、麻生君は顔を真っ赤にして右手で口元を押さえた。
「おー、マジなんだ」
「ね、言ったでしょ〜?」
山内さんがそんな麻生君を下から覗き見る。だんだん麻生君の顔が真っ赤になっていった。
「ば、ばか美月!そういう事、本人の前で言うなよっ…!」
「本人に言わないで誰に言うのよ」
麻生君は口元に手を抑えたまま、ゆっくり私の方を向いた。
「あ、え、えっと…」
麻生君の顔の赤さが私にも伝染していく。
「あれれ〜?茉莉花ちゃんも満更でも無い感じ?」
道下さんが前のめりになり私に顔を近づけていく。
その時、右隣から椅子のひく音が聞こえた。
そこには晴人が気怠そうに席に着く姿が見える。
「あ、いや、その…」
どうしよう、晴人に聞かれちゃうかも…!
その時タイミングよくチャイムが鳴った。
「ほら、美月も茉莉花ちゃん困ってんだから遊ばないの!」
「はぁ〜い」
じゃあまたね!と山内さんと道下さんは自分の席に戻って行く。
「あ、あのさ、林さん」
「は、はい!」
突然声をかけられ大きな声を出してしまった。
「あの、アイツ、美月の言ってる事気にしないでね。迷惑かけてごめんね」
「あ、そんな!迷惑だなんて…」
困ったように眉を下げる麻生君に声をかけると、ぱぁっと急に笑顔になった。
「ほんと?じゃあたまに話しかけてもいいかな?」
「え、あ、はい」
麻生君の勢いに負け、思わず頷いてしまった。
「ありがと!じゃあまたね!」
麻生君は颯爽と自分の席に戻って行く。
その後ろ姿から覗く耳はまだ少し赤かった。
「進展あったら教えてね」
側で見ていた百合は最後に小さな声で耳打ちすると自分の席に戻っていく。
みんなが居なくなった私の周りは見渡しがいい程教室全体がクリアに見える。
遮るものが何もない。
なんとなくゆっくりと晴人の方を見た。
「…!」
晴人は右手で頬杖をつきながら目を細めて私の方を見ていた。
「…楽しそうでよかったですね」
なんとも皮肉たっぷりな言い方で晴人はそれ以上何も言わず教科書を取り出す。
「これは、そのっ…」
「はーい、席つけー。授業始めるぞー」
晴人に話しかけようとするとタイミング良く先生が入って来てしまい、私は何も言えないまま教科書を出した。
絶対聞かれた!!
麻生君の事、絶対勘違いされてる!!
なんとか説明しないと、と焦りながら受けた授業は全く頭に入ってこなかった。