キミが教えてくれたこと(改)
傘に当たる雨が大きな音を立てている。
履いているローファーは水分を含み、脚を濡らし気持ち悪さを感じる。
電車を降り、学校へ向かい付いた下駄箱では雨独特の匂いと生暖かい感覚が肌を掠める。
上履きを出し、履いていたローファーを下駄箱に入れようとすると隣で誰かが上履きを出した。
「あ…」
「よっ。なんか久しぶりだな」
そこにはずっと話したかった晴人がいた。
晴人は不思議とどこも雨に濡れておらず、まるでこの天気の悪さを微塵も感じさせなかった。
「ひ、久しぶり」
もうかれこれ2、3日はまともに喋っていないため声が少し上ずる。
「晴人、全然濡れてないね」
なんでもいいから少しでも一緒に時間を過ごしたい。
「茉莉花が傘持つの下手なんじゃね?」
「な!またそういう事言う!」
くつくつと笑う表情を見て、当たり前だけどいつもの晴人だ…とほっとする。
「あ、あのさ、晴人。もし良かったら…」
「林さん!」
名前を呼ばれて振り向くとそこには息を切らして笑顔でこちらを見ている麻生君がいた。
「…じゃあな」
「あっ…」
晴人はそのまま何事も無かったかのように教室へ向かってしまった。
「おはよう!…?どうかした?」
「え?あ、ううん。なにも…」
なんだか今日の晴人は少し素っ気ない気がした。
「そう?あ、林さん昨日の数学の宿題した?問2だけが全然解けなくてさ…」
「確かに。あそこ難しかったよね」
麻生君は男の子にしては可愛らしい顔をしているため、見た目だけだと女の子喋っているみたいで緊張がほぐれる。
だから晴人以外で唯一、普通に喋れる男の子。
そのまま話しながら教室へ向かうと私達を見た男子生徒が口笛を吹いた。
「なになに!?二人ってそういう関係なの!?」
「えっ…」
彼のその一言で教室内が少しざわつき始める。
「え、ちがっ…」
「楓太にも遂に春が来たかー?」
麻生君はクラスメイトに肩を組まれながら険しい顔をしていた。
私はどうすればいいかわからず教室内を見渡すと席についている晴人と目が合った。
「………っ」
目が合った…のに。
何も無かったかのように目を逸らされて胸がズキンと痛んだ。
「林さん、こいつすげぇいい奴だからさ。よろしく頼むよー」
「あ、えっと…」
よろしくって…何をよろしくするんだ。
戸惑っていると麻生君はクラスメイトに組まれていた腕からすり抜けた。
「やめろよ。林さん困ってんだろ」
「な、なんだよ、楓太。冗談だろ、冗談!」
普段からニコニコと優しい麻生君からは想像出来ない鋭い目で睨みつけると、クラスメイトはたじろぎながら体を離した。
「ごめんね、林さん」
「あ、いいえ…」
私は居た堪れず自分の席へ向かう。
晴人に目線を向けるが全く目が合わず私は何も言わずそのまま席へついた。