キミが教えてくれたこと(改)
「わー!茉莉花ちん私の後ろなんだ!よろしくね〜!」
指定された先まで机を移動する時声をかけてきてくれたのは道下さんだった。
「ほんとだ!嬉しい!よろしくね!」
なんだか賑やかな席になりそう!そう思って後ろの百合と一緒に三人でニコニコしているとふいに左隣から机を置く音がした。
「あ、林さん隣なんだ。よろしく」
優しい音色で声をかけてくれたのは麻生君だった。
「あ、よ、よろしく…」
「なによ楓太〜、私も近くなんですけど〜」
「お前は腐れ縁なんだから今さらだろっ」
麻生君は私に向ける優しい笑顔とは違い、気心の知れた道下さんにはいつも少し意地悪そうな顔で笑う。
「ひどいよね〜、楓太って。茉莉花ちんもそう思うよね?」
「で、でも二人ともすごくお似合いだし仲良くて羨ましいなって思っ…」
「「お似合いじゃないし!!」」
私の一言に二人が勢いよく言葉を重ねて否定したので思わず体を引いてたじろいでしまった。
「林さん、コイツとはただの腐れ縁だから!勘違いしないでね!」
「それはこっちのセリフです〜!」
二人は一度睨み合い、また同時に顔を背けた。
「あ、えっと…」
「茉莉花ちゃん、大丈夫だよ。二人はいつもこんな感じだから」
私のせいで険悪なムードになってしまい目を泳がせていると、後ろの席に座っている百合が私に耳打ちをして微笑んでいた。
そっか、と胸を撫で下ろし百合の方を向いていた顔を前に戻そうとした時ちょうど晴人が見えた。
晴人と一瞬目が合った気がしたけど、それもものの数秒のことで今は目線が絡まる事もなく晴人はまた気怠るそうに教科書に目を通していた。
同じ空間にいるのに、すごく遠く感じる。
ただ隣の席だっただけでも、あの場所は私にとって安心出来る場所でもあったんだ。
「林さん?」
心配そうに私の名前を呼んだのは麻生君だった。
「大丈夫?なんかあった?」
「ううん、大丈夫。なんでもない」
眉を下げる彼に微笑んで私は渡り廊下のあるすぐ右側の窓を眺めた。
渡り廊下の向こうには外が見える窓が見える。
今までの場所よりも景色が遠い。
小さな窓からは灰色の空と無数の雨粒が降り注いでいる。
そう、なんでもない。なんでもないことなんだけど、この席も天気も晴人との距離も私にとっては少し不安に感じてしまうんだ。