キミが教えてくれたこと(改)
《で、あるからして〜…》
「ねぇねぇ、茉莉花ちん。校長、"で、あるからして〜"ってめっちゃ言ってない?もう50回くらい言ってるよ〜?」
《〜で、あるからして〜…》
「ほら!これもう51回目くらい」
前に並んでいる道下さんがヒソヒソと私に耳打ちし、私は誰にもバレないように口元を手で押さえて笑いを堪えている。
「おい、美月。林さん困らせんなよっ」
「ほんとの事言ってるだけだも〜ん」
横に並んでいる麻生君が注意を呼びかけるが、道下さんはどこ吹く風。
また二人は小さな声で言い争いを始めた。
そんな二人を微笑ましく見ていた。
晴人と私もこんな風に見えるのかな…。
「………」
周囲を見渡し、前の列から後ろの列まで確認する。
やっぱり晴人はいない。
「こーら、林。集中しろ」
担任の先生に肩を叩かれ私は大げさに肩を揺らした後、すみません…と前を向いた。
「珍しいね、林さんが注意されてたの」
全校集会が終わり講堂から出る途中、麻生君に声をかけられ恥ずかしさで俯いて頷く。
「誰か探してたの?」
「うん、まぁ…」
私が曖昧に答えると麻生君は一度目線を上に向け考える素振りを見せた。
「…もしかして、好きな人。とか?」
「え、えぇ!?」
麻生君のその一言に熱が顔に集中するのが分かり、私は声にならない声を出していた。
「あ、えっ、えっと…、その、」
「ははっ、ごめんごめん。そんな動揺すると思わなかった。林さん可愛いね…あ。」
「!」
ーー可愛い
ふいをついて出た言葉だったのか、麻生君は口元を押さえ目を泳がせていた。
髪から覗く耳が赤く染まっていく。
「あー、えっと、ごめん。今の、忘れて…」
「あ、うん…」
そのまま麻生君は私に背を向け友達の方へと向かって行ってしまった。
私はそのまま呆然と立ち尽くし我に返ると急いで教室へ向かった。
なんだか晴人以外にドキドキしてる自分に罪悪感を感じる…。
そんな不安を消したくて教室へと入ると私が開けた教室のドアから対角線上に晴人が席に座っているのが見えた。
晴人、来てたんだ…。
朝日に照らされた晴人がなんだか消えてしまいそうで、今すぐ晴人の側に駆け寄りたい気持ちでいっぱいだった。
だけどそんな気持ちも虚しく、入ってきた担任の一言でホームルームが始まり私は大人しく自分の席へ座った。