キミが教えてくれたこと(改)
カサッと芝生を踏む音が耳に入る。
「…晴人?」
私は紫陽花達を抜けて晴人が寝そべっているベンチへ向かった。
「寝てるの?」
近付いても起きる気配はない。
私はベンチの前でしゃがみ込み、晴人の寝顔を見た。
こんなにじっくり顔を見るのは初めてかもしれない。
筋の通った鼻に、薄い唇。睫毛、意外に長いんだ。
風で吹き、晴人の前髪が目にかかる。
私はそっと右手で前髪を避けた。
「…晴人、私ね。友達が出来たことが嬉しくて、晴人にも喜んで欲しかっただけなんだ…」
「……」
当たり前だが晴人からの返事はない。
ちょうど近くにある大きな木が木陰を作っており晴人の綺麗な顔に影を落としている。
「だけど、晴人に嫌な思い…させちゃった、よね。ごめんね」
また風が吹き晴人の前髪が目にかかる。
「私、麻生君の事なんとも思ってないよ?晴人にだけは私の気持ち、勘違いして欲しくない。…それだけは覚えておいてほしい」
晴人の前髪に触れようと手を伸ばした。
「…んなこと、わかってるよ」
突然開いた口にビックリして手が止まる。
晴人がゆっくり目を開き、組んでいた手を外し行き場のなくなった私の手を掴んだ。
「え、晴人いつから起きて…」
「寝てるなんて言ってねぇし」
なにそれ!むかつく!
私は恥ずかしさのあまり晴人を睨みつける。きっと顔が赤くなってるからなんの効力もないんだろうけど…。
「俺が勝手にイライラしてただけ。…俺こそごめん」
珍しく素直に謝る晴人に私は何度も瞬きをする。
「…っんだよ。見んなっ」
不貞腐れて晴人は掴んでいた私の手を離し、背を向けた。
なんだかその姿が可愛らしくて気付かれないように笑った。
「……いんだよ」
「え?」
何を言ったか聞こえなくて聞き返す。
笑ってたのがバレるとまた不貞腐れるだろうなと思って冷静を装った。
「…茉莉花は、俺だけ見てればいいんだよ」
それは、小さな小さな独占欲。
「…晴人、やっぱりヤキモチ妬いてたの…?」
「うるせー。寝る」
否定しないんだ…。
私はまた微笑み、背を向けて出来たベンチの隙間に浅く座り晴人の存在を感じながら風景画を描いた。