キミが教えてくれたこと(改)
雨の匂いがする廊下を歩き、窓の外の雨粒を目で追う。
階段を降り、先程の麻生君とのやりとりを思い出す。
「傷つけちゃったかな…」
最後の表情が頭から離れない。
でも嘘はつきたくない。私は…ーー
下駄箱に着き、上履きとローファーを入れ替える。
下駄箱の蓋を閉めて昇降口で傘を広げようとした、その時。
「…晴人?」
下駄箱に背中を預け、しゃがみながら膝に頬杖をつき昇降口から雨が降る出入り口を眺めている晴人がいた。
「何してるの?」
「別に」
「帰らないの?」
「傘忘れた。」
確かに晴人のそばに傘は見当たらなかった。
私は傘と晴人を交互に見る。
「…一緒に入る?」
外を見ていた晴人の視線がゆっくりと私を見上げる。
「…好きな奴に勘違いされたくないんじゃねぇの?」
どこかで聞いた言葉に私はハッとする。
「晴人!また盗み聞きしてっ…!」
顔が赤くなり、思わず傘の柄をぎゅっと両手で掴んだ。
晴人はふっと笑い、私の手から傘を取ると出入り口まで歩き傘を広げた。
「相合傘ですね。みんなに勘違いされちゃいますよ?」
ニヤリと笑う晴人に「馬鹿じゃないの」と一言呟きそっと歩みを進め晴人の隣へそっと入る。
晴人は満足そうに笑うとゆっくりと歩きだし私もそれに合わせて右足を前に出す。
「…晴人ってさ、普段何してるの?家に帰ってから、とか…」
「んー、何してるかな。誰かと遊んでたりゲームしたり…。」
「じゃあ昨日は何してた?」
「なんだよ、ストーカーか?」
「違うよ!ちょっと気になっただけ!」
「わーかってるよっ」
くつくつ笑う晴人の肩が揺れて私の肩に振動が伝わる。
なんだかこんな風に話すの久しぶりだな…。
「最近あんま記憶ないんだよなー。帰ったらいつのまにか寝てて朝になって学校行ってみんなと会ってって感じ」
「どんだけ学校楽しんでるのよ…」
溜息をつきながらも晴人らしいな、となんだか可笑しくなった。
「…茉莉花、もっと寄れよ。濡れんだろ」
ふいに右隣に立つ晴人が私の肩に手を伸ばし自分の方へと引き寄せた。
その行動と縮まった距離に歩いている地面を見ることしかできなかった。