キミが教えてくれたこと(改)
「晴人!!」
私の呼びかけにゆっくり振り向くのは確かに晴人だった。
「はぁっはぁっ、やっぱり!良かったぁ、やっぱり私間違ってなかった!」
安心感で自然と顔が綻ぶ。
走ったために上がった息をなんとか整える。
「…お前はそんなに俺に会いたいのかよ」
いつもの意地悪な顔では無く、少し悲しそうにそう言う。
「晴人、聞いて。みんなおかしな事言うの!晴人がずっと学校に来てないって!私は晴人と会った事がないって!晴人、ここにいるのに!」
まくし立てるように言う私に晴人は目を伏せた。
「晴人?私、間違ってない…よね?」
どうしてか晴人の表情に胸がヒュッと鳴る。
「…間違ってない」
「!やっぱり…!」
「でも、他の人達も間違ってない。」
晴人の顔がだんだんと険しくなっていく。
「どういう…事…?晴っ…!」
晴人の名前を呼ぼうとした時、ふと晴人の左手を見て言葉を失ってしまった。
私の手を包んでいたあの優しい手がだんだんと透けて後ろの景色を写していたからだ。
私の視線に気付いた晴人はゆっくりと自身の左手を持ち上げ、「…潮時か」と嘲笑した。
「はる…と?」
「間違ってないよ。茉莉花も、みんなも。」
晴人は私と目が合うと悲しそうに笑った。
「俺の名前は天野晴人。O型。好きな食べ物はハンバーグ。…そして、茉莉花が転校してくる数日前…、俺は大型トラックに跳ねられて事故に遭った。」
全身の力が抜けるようだ。
晴人が何を言ってるか理解が出来ない。
「俺、毎日学校がマジで楽しくて。春休みも夏休みも冬休みもいらないってくらい。あの日も春休み開けで久々にみんなに会えて、また毎日楽しい日が続くんだって浮き足立ってた。みんなと一緒に学校を出て"また明日な"って話して別れてすぐ、雨でスリップしたトラックが俺に突っ込んでくるのが見えた。」
雨の日、私達の乗っていた車の横を通り過ぎた救急車は…もしかして…。
「俺自身もずっとその時の記憶が蓋をされたままだった。普段の生活も記憶はいいように塗り替えられてて…。思い出したのは茉莉花と二人で傘をさして帰ったあの雨の日」
晴人は消えかかっている左手をぎゅっと握った。
「それからだんだんと思い出して、怖くなった。俺はこの世に存在してないんだって。存在しちゃいけないんだって…!」
自分の髪をくしゃりと握り震える晴人はとても小さく見えた。
「でも、私には見える!晴人はちゃんと存在してるよ!」
震える晴人に手を伸ばした。
伸ばしたはずだった。
いつも簡単に触れる事の出来た晴人の体が透き通って私の手は空を切った。