キミが教えてくれたこと(改)


「…晴人…」


私は何も言えず両手で口を押さえた。

晴人に、触れられない。


「…記憶が戻った後、ずっと考えてたんだ。俺、なんでこんな姿になってまでこの世界にいるんだろうって」

ふっと悲しい笑顔の晴人が歪んで見える。
だんだんと晴人の体が透き通ってくる。

「待って!お願い!なんとかする!次は私が晴人を助けるから!」

「茉莉花、ごめん。」


どうして?どうして謝るの?


「きっと方法があるはずだよ!だからっ…諦めずになんとかっ…!」

「茉莉花、もういいんだよ」


そんな事言わないでよ。
いつもの晴人みたいに笑い飛ばして、明るく前向きな言葉を言ってよ。


「やだよ…っ。もう私、大丈夫だから…次は晴人を支えるからっ…!晴人は側にいてくれるだけでいいからっ…私がなんとかっ…」


涙を流しながら呪文のように何度も同じ言葉を繰り返す私を見て晴人は困ったように笑った。


「一人に…しないでっ…」

「一人じゃない。茉莉花はもう、一人じゃないよ」

優しく言い聞かせるように晴人は呟く。


「茉莉花、俺が何でこんな姿になってもこの世界に存在したんだと思う?」


涙を流しながら首を横に振る事しか出来ない。


「きっと、茉莉花に出会う為だったんだよ。」

「……っ!」

「学校は楽しい、友達は大切だって俺なりに伝えることがこの姿で存在した意味なのかなって。…今はそう思いたい。」

「晴人っ…」


ダメだ、だんだんと晴人の体が透き通っていく。
お願い、誰か、時間を止めてっ…!


「茉莉花、俺、この姿になって1つだけ良かったって思える事があるんだ。」


やめてよ、これで最後みたいに言わないでっ…


「後ろ向きで自分に自信が無くて、だけど誰よりも素直で真っ直ぐで頑張り屋で。一緒にいると心地良くて、ずっと側にいたい守りたいって思える子に出会った。」


優しい晴人の目が私を捉える。


「茉莉花、好きだよ。誰よりも。茉莉花が一番」

晴人の右手が溢れる私の涙を拭おうとする。だけどもう晴人の手の感触は無かった。


「茉莉花、最後に俺の願いを聞いてくれるか?」


涙を流しながら何度も強く頷いた。


「…笑って?」

「!」

「茉莉花の笑顔が見たい」

私はその言葉に何度も溢れる涙を拭って一度深呼吸をした。
顔を上げ、晴人の目を見つめ笑顔を作った。



「やっぱり、茉莉花は笑った顔が一番可愛いな!」


いつもの様に屈託無く笑う晴人がそこにいた。

まばたきをした一瞬の間にその姿は無くなってしまった。


「晴人…?」

辺りを見渡す。
まるで最初から私だけしかいなかったかの様に静けさが漂う。


「晴人?」

何度呼びかけても誰も応えてくれない。
涙は止まることを知らない。


「晴人っ…!」


私は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。


嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
晴人がいないなんて嫌だ!


意地悪な顔も、困ったように笑う顔も、優しい眼差しも、私を包む大きな手にさえ触れることは出来ないの?

晴人がいない世界なんて、何の意味ももたない。

誰か嘘だって言ってよ。

こんなに苦しい思いをするくらいなら、いっそのこと何も無かったかのように忘れさせてよ。

お願い。

誰か。





晴人…っ!






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