キミが教えてくれたこと(改)
階段を降り、人気のない場所へ辿り着く。
「あれ?ロビーはこっちじゃなかったっけ?」
自分の方向音痴さに嫌気がさしながら案内板を確認する。
「えっと、今ここだからそこを左に曲がって…」
確認し終え、目的地まで向かおうと足を進めた時ヒラヒラと何かが舞っているのが見えた。
あれは…ーー
「蝶々?」
そこには少し黄色味がかった白と黒の羽を持つアゲハ蝶がいた。
こんな室内で珍しいこともあるもんだな…と私の横を通り過ぎて行くのを見送った。
「………」
その儚げな後ろ姿に目が離せず、私は吸い寄せられるようにアゲハ蝶の後ろを付いていく。
ヒラヒラヒラヒラ。
捕まえられそうで手の届かない距離。
以前にも同じ様な場面があったように思えたけどいつだったっけ…?
アゲハ蝶はそのままドアの開いていた病室に入って行った。
中を覗くと個室になっているようで、普段なら絶対にしないはずなのにその時は何故かそのアゲハ蝶が気になってそのまま病室に足を踏み入れてしまった。
ゆっくりと音を立てないように歩き、薄いカーテンが窓から入る風で揺れていた。
アゲハ蝶はカーテンに止まったまま、私を待っているかのようだった。
手を伸ばし、指先でアゲハ蝶に触れようとするとアゲハ蝶はヒラヒラとカーテンの向こう側へ行き開いていた窓から出て行ってしまった。
「なんだったんだろう…」
不思議なこともあるものだとカーテン越しにあるベッドにふと目を移す。
そこには自分と同じ歳くらいの男の子が呼吸器を付けて眠っており、静かな部屋に心電図モニターの音が規則正しく鳴っている。
「…綺麗」
男の子にそんな言葉を使うのは少し気恥ずかしいが、眠っている顔にも関わらず筋の通った鼻に長い睫毛と端正な顔立ちが思わずそんな言葉を使わせた。
「…あれ?この人、私と同じ学校なんだ」
ベッドサイドに置かれていた茶封筒に自分の通っている学校名と住所の判が捺印されている。
「2年3組…天野…晴人」
そう言葉にした時、私の頭の中でパンっと弾けるような音がした。