もしもの話が嫌いな君は、
「………LINEっ」



俺は急いでスマホを取り出し、トークを確認する。


一番上には『メンバーはいません』の文字。

トークルームを開いても、そこには何のやり取りの形跡もない。



「佐弓………」


ふっと、そこまで親しくはなかったが、隣のクラスの女が浮かんできた。

以前、なぜか覚えていないが交換したLINEから電話をかける。



『もしもし……』

「あ、急にごめん。干潟史波だけど……」

『史波くん……。あたしさ、なんかわかんないんだけど………』


そう言って震える声で俺と同じ違和感を口にした彼女は、途中から泣いているようだった。



『………思い出せないんだ。
何か大切なことのはずなのに。

名前も、顔も、何も思い出せない。

なんて呼んでたっけ?

私は、あの子を、なんて………っ』



俺の頬を雫が伝う。


どうしようもない、絶望感が俺を包み込んでしまった。



するりとスマホが手から落ちる。












『ねぇ、シナ。

もしも、もしもね』









そう言って笑った、もしもの話をする君は、

もういない。
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