キミと、光の彼方へ。
玄関には高そうな革靴がきちんと揃えられていた。

今日は夜勤はないらしい。

その靴に少しいらっとしながら私は靴を並べ直し、居間に向かった。


「ただいま、お母さん」

「お帰り、珠汐奈。残業?」

「いや、そうではないんだけど...。そうそう。友達にたまたま会ってちょっと話し込んじゃって...。ごめん、遅くなって」


男子と話し込んでいたなんて知られたら、別の意味で体調をくずされかねないと思い、友達とだけ言った。


「いつもありがとね。今日もご苦労様」


母は何も疑うことなく、日だまりのような笑顔を見せた。

母が居間にいるということは今日は比較的調子が良かったということだ。

私はほっと胸を撫で下ろした。


「珠汐奈ちゃん、お帰り。今日も晩御飯ありがとう。バイトもあるのに、いつもごめんね。でもすごく感謝してるよ」


私に近寄ってくる1人の男性。

あの革靴の持ち主だ。


「そうですか...」

「ちょっと!珠汐奈!」

私はそれだけ言って居間を出た。

そして廊下の1番奥の妹と共同の部屋に入った。

漁師だった父が、私達姉妹のために、島中を駆け回って探して購入してくれた平屋の1軒家。

回りの家より小さいながらも、畳のい草の香りが家全体からしてきて、それだけで落ち着く。

そんな大好きな家に土足で入り込んで、私達家族を侵蝕していく人がいる。

この家に住み始めて2年。

私はまだあの人を認めていない。

そんな簡単に認められるものじゃない。

認めるってことはつまり、この世にはもう父はいなくて、母が父への愛を捨てたと、そう認識するしかなくなってしまうから。

そんなの私は信じたくない。

だって私の家族は1つだけだから。

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