キミと、光の彼方へ。
「あのさ、1つお願いがあんだけど」

「えっ?お願い?」


碧海くんがすかさず私の前に立ちはだかる。


「えっと...何?」

「桑嶋さんのこと、名前で呼ぶことを許可して下さいっ!」


このタイミングでこのテンションで来れるのは、さすが碧海くんだ。

私は脳のスイッチを切り換えた。

そう言えば、出会って早々名前で呼ばれて困惑して、苗字プラスさん付けにしてもらったんだっけ?

とはいえ、わざわざ申し出てくるとは、やはり碧海くんは普通じゃない。


「名前の前に、さんを外すことが先じゃない?」

「やっぱ飛び級は無理か...。んなら、しゃあないな」


いつからそんなに心のキョリが縮まったというのだろう。

そもそも私と碧海くんは同志みたいなもので、友達とはちょっと違う位置付けで、まだそれなりにキョリあると思うんだけどな。

感じ方は人それぞれってことか。


「ってことで、今日からは桑嶋で」

「うん。いいよ」

「で、桑嶋は?」


私は目をしばたかせた。


「えっ?私なんかすることある?」

「あるだろ~。大有りだよ。桑嶋も次のステップだ。いつまで碧海くんなんて、他人行儀な呼び方してんだよ」


他人行儀って、完全に赤の他人なんだけどな。


「そう言われても...」

「帆栄(ほだか)くん、くらい呼んでみろよ」


ほだか?

漢字が全く思い出せない。


「あれ、そんな名前だったっけ?」

「ひっでえなぁ。名前忘れたのかよ。ったく、俺にはとことん興味ないのな」


興味ない、わけではない。

かといって興味がある、わけでもない。

普通、なのだ。

私の中では、良く話はする、普通に仲の良い同志という感じ。

それ以上にも以下にもなる予定は今のところ、ない。


「ま、いいや。色々と分かったから」

「何、色々って?」

「色々は色々。説明するとややこしいからしないわ」

「ふ~ん」

「んだよ、ふ~んって。興味あんのかねえのか、はっきりしろよ」


遂に直球の質問が来たので、「普通」と回答。

これに対して碧海くんは、「あっそ」というだけで、後は口をつぐんでしまった。

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