キミと、光の彼方へ。
そんな碧海くんだったけれど、私は遂に彼のもう1つの顔を見ることになった。

50メートルも100メートルも、彼は相当速かった。

タイム的には海里がコンマ数秒速かったみたいだけど、50メートル6秒台は久しぶりに見た。

昔から海里と肩を並べられる人は早々いなくて、水泳が本業なのに、海里は島を越えて県の陸上大会に出たこともあった。

そこでも表彰台に上って地方大会に出ることもあったくらい海里も速かったし、今も速いけど、碧海くんはさすが陸上部だ。

何よりフォームがキレイなんだ。

軸がぶれないし、腕は大きく振って足の回転もモーターエンジン並みに速い。

それは息を飲んでしまうほど、刹那的な美を象った走りだった。


「ねえ、珠汐奈。さっきから何ぼーっとしてんの?まさか、碧海にホレたとか?!」

「違うよ。朝早かったから眠いだけ」

「ホントに?」

「ホントだよ」

「ふーん、ならいいけど」


砂良は私を心配し過ぎだ。

私の保護者みたい。

一人っ子なのに面倒見がいいのは、砂良の良いところ。

だけど、高校生になってまでこんなんだと、逆に私が自分への心配が尽きなくなってしまう。


「じゃあ、男子は1500、女子は1000メートルやるよー!まずは男子集合!」


牧先生の号令がかかり、男子達がぞろぞろとスタートラインに立つ。

誰よりもすらりと背の高い海里はどこにいたってすぐに見つけられる。

今も真っ先に海里に目が奪われた。

いつだって私の心をさらっていくのは、怪盗海里しかいない。


「はーい、位置に着いてー...よーい、どんっ!」


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