キミと、光の彼方へ。
と、走り終わった海里に心の中で拍手を送っていた時だった。

クラスの女子たちの話し声が聞こえてきた。


「あれ?そういや、碧海くんは?」

「あ、あれ。うわぁ、また足つったアピールしてるよ」

「去年もやってたよね、あれ」

「やっぱ本州の不良品はダメだねぇ」

「最悪なのが流れて来ちゃったわ」

「マジ、それな」


足吊った?

去年もやってた?

本州の不良品?

何それ?

急に日本人じゃなくなって日本語が聞き取れなくなったみたいな感覚に陥った。


「碧海、まだ足ダメなんだ...」

「碧海くんって何かあったの?」

「うーん。アタシも詳しくは知らないんだけど、なんか中学時代に色々あったらしいよ。で、今は跳べてない」

「えっ?」

「珠汐奈、あんた、本当に運動系疎いね。陸上部で跳ぶっていったら、ハイジャンだよ!走り高跳び!」

「あぁ、あれか...」


だから、跳ぶ、だったんだ...。

私は膝を押さえながらなんとか走ろうともがいている碧海くんを見た。

彼の姿に初めて写りこんだ濃い影は、私の声も出なくなるほどに淀み、濁った色をしていた。

イカスミ以上に真っ黒だった。


「言っておくけど、深入りしないほうがいいからね。アタシの友達も聞こうとしたけど、すごい目で睨まれたって言ってたから。マジで殺されるよ」

「うん、分かった......」


砂良の前ではそう言ったけど、私はその後もずっと碧海くんのことが気になって気になって仕方がなかった。

こんなにも心が揺さぶられるのは、一体いつ以来だろうというくらい、久しぶりに心が揺れて揺れる。

私の心はまるで難破船だ。

行き場を見失い、さまよう。

いや、行き場はもう...見えている。

わざと見えなくしているだけだ。

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