キミと、光の彼方へ。
「海里、あれ使って」


私は海里にいきなり話しかけ、傘立てにある空色の水玉模様の傘を指差した。


「珠汐奈...」

「教室のロッカーに折り畳み傘常備してるから心配しないで」


嘘。


「本当にいいのか?」

「うん。大丈夫」


嘘。


「じゃあ借りてく。明日必ず返す。ありがと」

「うん...」


でも...

海里にありがとうって言われると

...嬉しい。

先輩が私を見てくる。

求められている返答が私には分かった。


「私は海里の幼なじみの桑嶋珠汐奈です」

「あぁ、幼なじみ...。良かったな、海里。心優しい幼なじみがいて」

「はい」


海里の言葉は嘘でもいい。

その嘘で私の心が喜ぶから、海里の嘘は罪にならないよ。


「じゃあ行くか」

「はい」


海里は先輩と共に、雨が矢継ぎ早に地面を叩きつける中、背中を向けて去っていった。

私は今日もまた、海里の背中を見つめることしかできなかった。

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