二人の距離~やさしい愛にふれて~
「母さんは真面目で力を抜くことが苦手な人なんで大変だったと思いますけどそんな顔見せなかったっすね。」

「そうか、こんなにいい子に育って、頑張ったんだろうね。」

「そうっすね。でもまこちゃん、叔父が一緒に育ててくれました。それに、父さんの幼馴染のアッキーたちも一緒に。俺、父親は死んじゃいましたけど父親みたいな存在が2人いるんです。」

「きっと恭吾の父さんがいい人やったんやろう。じゃなきゃその人の子供の面倒なんてみないだろうし。」

恭吾は写真の中の父親の笑顔を思い出す。実物の記憶なんかなくて知っているのは誰かから聞かされた父親だった。

「父さんがいたから俺が生まれたのはわかってるんです。でも実感がないんですよ。あの人が生きてたっていう…。3歳のころに死んだんで俺はあの人のこと知らないし、実際に育ててくれたのはまこちゃんで…。」

恭吾は子供のころから感じていた違和感を口にしていた。今まで誰にも言ったことがなく、口に出して言ってはいけないような気がして心にとどめていた。

「そうやろうね。それは仕方のないことなんよ。実際記憶がないわけやしね。きっと恭吾くんのお父さんもわかってくれるよ。ただ、誰より君の健やかな成長を願っていた人であることは忘れないで、自分の手で育てたかっただろうし。」

その日誠一に自分の気持ちを否定されなかったことで何か吹っ切れたような気がしていた。このままでいいと肯定してもらったようでどこか安堵感さえ感じていたのだ。
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