二人の距離~やさしい愛にふれて~
「あ~、正直…記憶ないし、俺にとっての父親はまこちゃんなんだよな…そしてアッキー。」

その返答にため息をついた昌はしばらく宙を眺めていた。

「まぁな、お前小さかったもんな…俺にとっては大吾と一緒に住んでたり、働いてたりした日のことを昨日のことのように思い出せるのにな…あんなに可愛がってたのにそんなお前が覚えてないんだよなぁ。」

恭吾は初めて見る寂しそうに笑う昌の姿に胸が締め付けられる感じがした。自分が昌にこんな顔をさせているのだと思うと心苦しかった。

「ごめん…。」

「由彰と恭吾を見てると本当に若い時の俺たちを見てるようだよ。お前は本当に大吾そっくりだし、今だって大吾と飲んでるみたいな錯覚を起こすよ…。ここ、仕事終わりによく大吾と来てたんだ。この頼んだ串も大吾が好きなもんばっかりだよ。」

「へぇ、オヤジここに来てたんだ。」

「よくここで先輩とかそこら変の知らない客にもよくお前の話しててな。誰よりも茉莉ちゃんとお前のこと愛してたよ。」

普段はあまり口数の多いほうではない昌だが、大吾の話をずっと話続けた。
恭吾も昌しか知らない自分の父親の話に聞き入る。

「母さんとオヤジの馴れ初めとか聞いたことなかった。初めから仲良しとかじゃなかったんだ…。」

程よく二人とも酔いが回ったころには恭吾の中での父親がまた少し自分に近い存在に感じられるようになっていた。
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