二人の距離~やさしい愛にふれて~
「さぁ、そろそろ行くか、親父さん会計お願いします。」

昌がカウンターの中で一人、串を焼き続ける親父さんに声をかける。

「久しぶりに来たと思ったらびっくりしたよ。そっちのお連れさんはあの写真の子だろ?立派に育って、あの子が生き返ったのかと驚いたよ。」

親父さんは恭吾の顔を見てニコニコ笑っている。

「そうっすね。俺でもたまにそっくりすぎて驚きますよ。」

そんな二人の会話を聞きながら自分だけ父親のことを知らない事が残念だと初めて思う。

店を出るとすっかり暗くなっていた。
昌が駅とは反対方向に歩きだし、恭吾もその後をついて歩く。

「そこ。」

昌が振り返り指をさした先にはファミレスがある。

「だいたい俺たちが飲んでるときに由実と茉莉ちゃんはそこのファミレスにいたんだ。」

そう言うと昌はファミレスの中に入って行く。慌てて恭吾もついて行くと、茉莉と由実が窓側の席に座っていた。

「待たせたな。」

昌が声をかけると由実の横に座る。恭吾は後ろめたい気持ちがあり、俯き気味で茉莉の横に座る。

「昌くんありがとう。恭吾、何食べさせてもらったの?」

茉莉はできるだけ普通を装って恭吾に接する。でも本当は真から恭吾の気持ちを聞いておりどう接して良いかわからないでいた。

「焼き鳥、アッキーが若い頃オヤジとよく行ってた店だって…。」

「あぁ、母さんも何度か連れて行ってもらったことあるのよ。おいしかった?」

「うん…、オヤジの話もいろいろ聞いたよ。俺にはオヤジが生きてた実感なんてないけど…会ってみたかったなとは思うよ。」
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