二人の距離~やさしい愛にふれて~
それから二人はホテルを出ると、駅へと歩いた。
理花はこんなに正気の状態でどうやって男性と接して良いかわからずに戸惑っていた。それと同時に言い表しようのない正体不明の胸の痛みがあった。

「あ、あのさ、私一人で帰るから…じゃあ。」

ぐっすりと眠れたことでこんなに正気に戻ったことが怖かった理花は早く一人になりたかった。
走ってその場を立ち去ろうとした理花の腕を咄嗟に恭吾が掴む。

「いやっ、やめて…お願いします…やめて…」

いきなり理花の顔色が変わり掴まれた手を振り回す。その目からは涙が流れていた。
理花の目にはもう恭吾は見えておらず、意識は恐ろしい記憶の中に引き込まれていた。

「おいっ、どうしたんだよ?落ち着けって…」

恭吾は掴んだ腕を引き、暴れる理花を抱きしめた。しばらく理花は恭吾の腕の中で暴れていたがいきなり動かなくなった。

「理花?大丈夫か?何があったんだ?」

心配そうに覗き込んだ理花の顔は昨夜のように焦点の合わないような表情に戻っていた。

「ハハハッ、フフッ、アハハハ…ねぇ、お兄さんまだ足りないの?お酒買ってくれたらいくらでもいいよ。」

恭吾は『お兄さん』と呼ばれたことに動揺した。まるで別の人格にでもなったかのような錯覚を起こした。

バシッ…

恭吾は理花の頭を叩くと、また力いっぱい抱きしめた。
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